愛知民報

【09.03.22】ダム・導水路を考える 設楽ダム

 国土交通省が東三河の設楽町内につくる計画の設楽ダムは建設費2070億円、関連事業費をふくめると、3000億円の巨大事業です。

 そのうち県の負担は1400億円。豊橋市など下流5市1町の負担は22億円にのぼります。県は世界不況の影響で「財政危機」といいながら、来年度予算に設楽ダム関連事業費40億円を付けました。医師確保対策費5億円の8倍です。建設業界紙は「県の重点事業として手厚い内容」と評価しています。

 完成予定は2020年度。完成後も県は「売れない水」をかかえ、負担金の元利払いを続けることになります。ツケは国民・県民・住民に回されます。

ダムに逆風

 「利水、治水効果に疑問」「県の水需要予測『過大』」「『自然に優しい』、不信感」「故郷水没 消えぬ無念」「不況続けば県に重荷に」…。

 政府が設楽ダムの基本計画を決めたのに、新聞記事には批判的な見出しが目立ちます。
 建設反対運動が訴えてきた問題点(別項)です。日本共産党国会議員団は昨年10月、国土交通大臣にたいし水需給計画の見直し、設楽ダムなどダム建設の中止、ダムによらない治水の追求を申し入れました。

 11月には、建設予定地に近い新城市に全国の運動団体が集まり、設楽ダムの建設中止を求める全国集会が開かれました。

町を守る

 設楽町は人口約6200人。奧三河山間部の政治・経済の中心地です。町を南北に流れるのが豊川(「とよがわ」。寒狭川ともいう)。絶滅危惧種の天然記念物、ナマズ科の魚ネコギギが生息し、アユ・アマゴ釣りで有名な清流です。

 設楽ダムは、町の中心街区のそばに、高さ129メートルのコンクリートダムを造り、豊川の水をせき止めます。総貯水容量は9800立方メートル。300ヘクタールにおよぶダム湖で設楽町は東西に分断されます。

 水没による立ち退きは120戸。同町の20戸に1戸の割合です。設楽ダム建設は同町に重大な打撃を与えることになります。

 昨年、反対住民がおこなった、建設の是非を問う住民投票条例の制定を求める直接請求には有権者の3人に1人が署名しました。条例案は町議会で否決されましたが、直接請求は町民の勇気と良識を全国に示しました。

 昨年11月、寒狭川漁業組合が設楽ダム建設による寒狭川の用水路化、ダム放水の危険など直下流域住民の不安を議会に訴えました。

 町民運動と連帯し、「設楽町を守れ」と田中邦利日本共産党議員が設楽町議会で奮闘しています。

“水余り”

 設楽ダムは水道・農業用水の確保、洪水調節、渇水時の河川流量維持の役割を果たす多目的ダムです。しかし、いまや必要論はくずれ、“造るために造る無目的ダム”になっています。

 2002年に完成した豊川総合用水事業で水の供給力は格段に増強されました。地元紙は「3年連続『節水なき夏』 需要ピークも余力十分」(「東日」紙)と書きました。

 下流域市町の議会でも日本共産党議員が設楽ダム不要の論陣を張っています。

 無謀なダム建設の中止を求め、住民生活と環境を守る運動を前進させましょう。

(林信敏)

設楽ダム計画の問題点

▽豊川用水につづく豊川総合用水の2002年完成で水道用水・農業用水・工業用水は確保された。設楽ダムの新規用水は必要ない。
▽設楽ダムは上流部のダムであり、洪水調整の効果にとぼしい。代替策は十分できる。
▽天然記念物ネコギギの生息地など貴重な生態系を大規模に破壊する。
▽河川流量の維持をうたうが、清流・豊川を細らせ、三河湾の汚濁など環境悪化をもたらす。
▽ダム建設予定地の地質がもろく、完成後の地滑りも心配される。
▽設楽町と奥三河地方を衰退させる。
▽国・県・自治体のきわめて重い財政負担。水道料金や税金に転嫁され、県民の負担増に。
▽国交省・県建設部OBの天下り先企業が調査・設計・工事を受注。

設楽ダム関係事業費の負担額(億円)







事業名 総額 愛知県 設楽町 下流市町
設楽ダム建設事業 2,070.0 1,349.1 720.9
一般行政事業 213.7 29.6 176.5 7.7
水源地域整備事業(水特法) 560.0 133.8 398.9 17.4 9.6
水源地域振興事業 58.1 18.2 31.1 5.2 2.9
生活再建対策事業 26.1 22.5 3.6
水源地域対策基金事業 45.3 39.0 6.3
合計 2,973.4 1,530.9 1,388.9 30.2 22.3
(水特法=水源地対策特別措置法。各負担額は千万円で四捨五入しているため
合計が合わない場合がある。下流市町は豊橋、豊川、蒲郡、田原、新城各市
および小坂井町)