愛知民報

【18.06.17】カジノ・IR問題資料 5月31日衆院内閣委員会 鳥畑与一静岡大学教授の意見陳述(抜すい)

 私は、一昨年12月の参議院内閣委員会参考人質疑において、IRに収益エンジンとしてカジノを組み込むことでカジノを合法化するIR型カジノは、日本経済の発展と地域社会の安定と振興に逆行すると発言させていただきました。
 政府は、カジノ単独では刑法の賭博禁止の違法性を脱却できないが、IRの中に組み込んだカジノは違法性を阻却できるとします。
 その論拠は、カジノの高収益で、世界最高水準の国際会議場、展示施設や宿泊施設、観光の魅力増進施設、送客機能施設等が実現し、観光振興や巨大な雇用と税収の実現などの経済効果が生まれるというものです。カジノの収益性の水準が、IR型カジノの経済効果を左右する仕組みとなっています。
 (カジノ実施法案で)IR施設面積の3%以下にカジノ行為区域を制限するということは、1・5ヘクタールのカジノで50ヘクタールの施設の投資と運営費を賄うということになります。しかし、1・5ヘクタール程度のカジノでは、高収益を上げるのは非現実的です。
 例えば、ラスベガス・サンズはベネチアンリゾートホテルとパラッツォリゾートホテルをラスベガス・ストリップに持っておりますが、カジノ面積2万平方メートルで、合わせて2016年4億3900万ドル程度のカジノ収益しか上げることができておりません。
 IR施設面積比でのカジノ面積規制としたことは、カジノ面積を広げるために、ますますIR施設を巨大化せざるを得ないことになります。IR施設が巨大化するほど、カジノの高収益を高めるため、依存症対策を緩和していかざるを得なくなります。
 今国会でも、巨大なMICE施設が国民負担なしに実現するとの説明がされていますが、ギャンブルの負けという国民犠牲の上に、MICE等のIR投資が回収され、運営されるというのが実態ではないでしょうか。
 今回の法案は、公設、公営、公益のギャンブルのみを認めるというこれまでの方針を180度転換させるものです。しかし、カジノ事業者の私益追求を肯定しながら、その利益の一部が納付金や寄附等で社会還元されることをもってカジノ事業者の利潤極大化行動を公益性で粉飾することはできません。
 世界最大のカジノ事業者であり、日本進出が最有力視されているラスベガス・サンズの場合、過去6年間で187億ドルの利益を株主等に還元したことを誇っています。
 しかし、その利益源はかけ金の負け額であり、そして、顧客を依存症状態に誘導するほど利益が拡大するのであり、人の不幸を最大化することで利益が最大化するビジネスは、目的の公益性とは全く相反するものです。
 本法案では、カジノ事業者の特定金融業務を認めています。これは顧客資産の信用審査の上で信用枠を設定してかけ金額を顧客に貸し付けるものであり、顧客のかけ行為の継続時間の長期化や射幸性増大を通じて依存症の危険性を高めるばかりか、顧客の金融資産のかけによる喪失を促進するものです。このことは、カジノ合法化が日本の家計金融資産を標的にしていることを如実に示しています。
 家族みんなで楽しめるIRは、さまざまな入り口から誘引した顧客をカジノに誘導して収益化するというのが実態であり、家族みんなのギャンブル漬けを促進することになります。このことは、より多くの家庭の崩壊や老後生活の破壊を導くことになります。
 カジノを目当てにした外国ギャンブラーの訪日は期待できず、各推計においても、カジノの外国人比率は、甘目に見ても大阪等の大都市部で3割、地方では1割から2割というのが現実です。
 この外国人比率の低さとラスベガス・サンズの利益配分を踏まえれば、国内の富の海外流出の危険性は高く、資金の地域外と国外への流出により地域循環型経済の衰退が進むことになります。
 最後に、IR型カジノがなくても、今、日本への国際観光客は大きく増大しています。もはや、国際観光振興のためにカジノという立法根拠はなくなったのではないでしょうか。IR型カジノがなくても国際観光客が増大している今、そもそもカジノ合法化がIRにとって不可欠なのかという根本に立ち返った議論が必要であると訴えて、私の意見とさせていただきます。

 

用語解説

 【カジノ】賭博(とばく)場。ルーレット、カードなどのゲームに金銭を賭ける。刑法の賭博罪に触れるため日本では設置が認められていない。
 【IR】カジノを中核とした観光・娯楽・商業の統合型リゾート施設。カジノ実施法案では地方自治体の申請にもとづきカジノの併設を認める区域を指定して設置される。
 【MICE(マイス)】国際的な会議、見本市、展示会、イベント。

カジノをめぐる県内の動き

 ◇2002年、常滑商工会議所は05年中部国際空港開港に向けカジノ構想を発表。08年「臨空都市カジノ協議会」を設置。
 ◇04年8月、名古屋市議会の自民、民主議員が公費北米視察の際、ラスベガスに立ち寄りカジノに興じた。
 ◇10年4月、国会議員の「カジノ議連(国際観光産業振興議員連盟)」発足。愛知県内選出の自民、民主衆参議員が加盟。
 ◇16年12月、常滑商工会議所は愛知県に「大規模展示場利用促進及び統合型リゾート研究の推進に関する要望書」を提出。
 ◇16年12月、カジノ解禁法が自民、公明、維新の賛成で成立。
 ◇17年6月、常滑市議会は商工会議所提出のカジノ誘致への調査研究を求める請願書を賛成多数で採択(共産党など反対)。
 ◇17年8月、愛知県の大村知事は「常滑市の中部国際空港の空港島エリアへのIR誘致の検討」を表明。県は「国際観光都市としての機能整備に関する研究会」を設置。
 ◇17年12月、日本共産党が常滑市内で「知多半島にカジノはいらない集会」を開催。
 ◇18年2月、革新県政の会が開催した「県知事選1年前2・7集会」で、常滑市議からカジノ反対運動が報告される。
 ◇18年2月県議会、31の県民団体が愛知県議会に共産党県議の紹介で「愛知にカジノ設置をしないよう求める請願」を提出。賛成少数で不採択。
 ◇18年3月、大村知事に対し「愛知にカジノを設置しないよう求める要望書」が1725名の署名付きで提出された。
 ◇18年5月、愛知県弁護士会(日本弁護士連合会・中部弁護士会連合会共催)が名古屋市内で、カジノ実施法案の廃案を求める「カジノ作って本当に大丈夫?IR関連法(カジノ法)とギャンブル依存症対策を考える」集会を開催。