愛知民報

【12.04.01】震災がれき処理場建設 愛知県が碧南火力で検討 市民「協力したいが、汚染不安」

市役所“寝耳に水”

 3月18日の日曜日、西三河地方、衣浦湾を臨む人口7万3000人の碧南市に衝撃が走りました。「中日」紙朝刊が、愛知県が同市内にある中部電力碧南火力発電所内に東日本大震災で発生した廃棄物「震災がれき」の焼却施設建設を検討していると報道したからです。突然の新聞報道に、市民のとまどい、不安、怒りが交錯しました。翌日の月曜日、市民から市役所に問い合わせや抗議が殺到しました。行政側や市議らも市民と同様、新聞報道で知る有様でした。県の頭越しの計画に市民から怒りが噴き出しています。
 

放射能が怖い

 発電所は同市の臨海部に立地し、隣地には子どもも利用する「へきなんたんトピア」や「あおいパーク」、釣り広場があります。

 発電所近くの住宅地で草取りをしていた女性(66)は「被災地を助けたいが、私たちには必要な情報がない。政府が原発の再稼働に向けて動き、一方で、がれき処理を自治体に頼む姿勢が許せない」と話しました。

 建設業の女性(59)は「孫たちの健康への影響が心配で複雑な気持ち。放射能は目に見えず、煙がどう流れるか分からず怖い」。無職の男性(67)は「放射能がないなら協力したいが、これまで東京電力や政府が言ってきたことが信用できない」と怒りを込めます。

農漁業に風評被害も

 碧南市は農業と漁業が盛んな地域。関係者から大きな不安がでています。

 同市の特産はニンジン。野菜の産直販売も盛んです。ニンジン生産で競争している千葉県が東日本大震災の影響で打撃を受け、碧南のニンジンの出荷が好調といいます。そこへ震災がれき焼却の話。

 農家の男性(57)は「碧南火力にがれきが運び込まれた瞬間に風評被害が広がり、野菜が売れなくなる」と不安を口にしました。

 同市の漁業は三河湾の魚介類を獲っています。水産加工会社の経営者(66)は「焼却灰や排水から放射能がでてきたら、伊勢湾全体の死活問題だ。津波だけのがれきなら協力したいが、放射能は拡散し濃縮されていく」と訴えました。

 この経営者のもとに報道の翌日、東京・築地市場の業者から「碧南は大丈夫か」と電話が入りました。

 漁協の幹部は言います。「私も何の説明も受けていない。被災地への同情だけではすまない。漁師を犠牲にしてまでは協力できない」

共産党碧南市議団 市に質問書「情報公開、説明を」

 日本共産党市議団の山口春美、岡本守正、下島良一の3氏は、18日に市民の声を市への質問15項目にまとめ、19日に市長に提出しました。

 3氏は「情報を公開し住民の理解を得ることが不可欠。県が市長や議会、住民に事前に報告せずに一方的に発表したことに抗議し、一刻も早く市民に説明すべきだ」と指摘。放射能有無の確認方法や空中飛散、浸透拡散対策▽風評被害や実質被害が発生した場合の責任所在▽周辺自治体の合意形成方法などの回答を求めました。

 この日、市長は報道機関への対応に追われ、副市長ら市幹部が応対。「寝耳に水」「県の一方的な発表なので詳しいことはわからない」と、頭越しの発表にとまどいを隠しませんでした。

 市には、新聞報道後3日間で、メールと電話で325人から抗議が殺到。環境課の担当者は「通常業務ができない。市の方針はなく、問い合わせにまったく答えられない」と困惑した表情でした。

 同市は15日の市議選告示(22日投票)目前です。3月25日の日本共産党演説会で、再選をめざす3市議は「市民が納得できる解決の先頭にたつ」と表明。応援に駆けつけた井上哲士参院議員は「防災のまちづくりも原発ゼロも、福祉・医療の充実も、共産党の3議席でこそ実現できる」と力説しました。

論説 復興協力 市民の思いに応えよ

 多くの碧南市民は震災がれきの処理に協力する思いをもっています。前提は放射能の安全対策と住民の合意です。

 今回の県の計画は乱暴で、前提をつくる姿勢に欠けています。知事から市長の携帯電話に連絡が入ったのは新聞発表の前日。市民から殺到する問い合せに、市役所側は「寝耳に水」を繰り返すばかりです。地元無視の「頭越し」です。

 県が碧南火力内につくるという震災がれきの焼却施設の内容、がれきの発生地と搬入量、放射能汚染のチェックと安全確保、環境影響といった、質問に市側は答えることができない状況です。

 県は、住民や自治体にたいし説明責任を果たすべきです。

 県は、環境省ががれきの処理基準として示している放射性セシウム濃度1キログラム当たり8000ベクレルにたいし、根拠が不明確と疑問を呈してきました。

 政府の責任は重大です。政府に、基準の抜本的な見直し・強化など放射能対策を真剣に講じさせることが求められています。