愛知民報

【11.12.04】三菱派遣切り裁判 三菱電機の不法を断罪 加藤悠史弁護団事務局長に聞く

 
 総合電機メーカー、三菱電機の名古屋製作所(同市東区)に解雇された3人の派遣労働者が、同社と3つの派遣会社を相手取り、三菱電機社員としての地位確認と損害賠償を求めた裁判で、名古屋地方裁判所(田近年則裁判長)は11月2日、派遣先の三菱電機の責任を認めて慰謝料の支払いを命じました。判決の内容と意義について、弁護団事務局長の加藤悠史弁護士に聞きました。(聞き手、本紙記者・村瀬和弘)

判決で認定 途中解約 「身勝手」 派遣先の責任を明記

 
 この裁判は2008年末、リーマンショックをきっかけとして大量の派遣労働者が解雇された中で、三菱電機に解雇された労働者自身が「許せない」と立ち上がった裁判です。09年3月の提訴以来、14回の口頭弁論を重ねてきました。

 原告の1人は02年から三菱電機で働いていました。当時、製造業での派遣労働は法律で禁止されていました。しかし三菱電機は、派遣ではなく請負として、社外労働者の受け入れを続けました。いわゆる偽装請負です。

 この点について判決は「労働者派遣法が製造業務への派遣を禁止していた間は、同法の規制を潜脱して訴外コラボレートとの偽装請負により就業させ、労働者派遣法が製造業務への派遣を認めるようになってからも労働者派遣に改めることなく、偽装請負を継続」と認定しました。

 三菱電機は「請負は適正だった」と主張していましたが、証人尋問で三菱電機側の証人は、請負と派遣の実態について「とくに変化はなかった」と証言しました。違法な請負だったことは当事者の証言からも明らかだったわけです。

 その後、04年に製造業への派遣が認められましたが、三菱電機は06年に派遣契約に切り替えるまで、違法な偽装請負を続けてきました。

 三菱電機は、違法な社外労働者の受け入れを長期間継続して利益をあげてきましたが、08年12月1日、突然派遣契約解除を通達しました。数日前に契約更新を合意していたにも関わらず、あまりにも突然のことでした。

 私たちは「三菱電機は派遣労働者の雇用責任を取れ」「違法な行為があったと認めろ」と訴えてきました。

 裁判所は三菱電機が一方的な都合で派遣契約を解除したことを「不法行為である」とはっきり認定しました。

 判決は「自社の生産の都合のみで、派遣労働者の就業の機会の確保に向けた配慮をまったくしないまま、前月までの対応とうってかわり、突然に労働者派遣契約を中途解約するに至ったものであり、身勝手にも甚だしいものがある」と明記しました。

 判決で「身勝手甚だしい」と書かれることは極めて珍しいことです。企業の都合でいつでも労働者を犠牲にして解約できるという派遣労働を悪用した企業の態度が許せないという姿勢が判決の内容にも現れています。

 判決は「ただでさえ雇用の継続性において不安定な地位に置かれている派遣労働者に対し、その勤労生活を著しく脅かすような著しく信義にもとる行為が認められるときには、不法行為責任を負うと解するのが相当」と、派遣労働者を受け入れてきた企業が労働者の生活に責任を負うことも明記しています。

 今回の判決は、三菱電機の責任と違法行為を認定した判決にほかなりません。三菱電機をはじめ日本の大企業は大量の派遣労働者を受け入れ、人件費を削減して利益を上げてきました。不況で生産が落ちたというだけで一方的に派遣労働者の雇用をないがしろにする実態がありました。

 全国で多くの人たちが?派遣切り?に合い、裁判に立ち上がっています。この間の判決では派遣先の不法行為すら認めない判断が続いてきました。労働者の実態を直視しない形式的な判断が続いていたのです。

 今回の判決はその点できわめて画期的です。三菱電機の異常さと「人間をモノのように扱うな」という原告の頑張りが裁判官の心を動かしたのだと思います。