愛知民報

【18.04.08】「共謀罪法」の危険浮き彫り 故新村猛名古屋大学名誉教授の治安維持法下の裁判記録

 戦前に治安維持法違反の疑いで弾圧された故・新村猛名古屋大学名誉教授の裁判記録がありました。その記録から、容疑のでっちあげや、内心の自由を侵す厳しい弾圧・監視の実態が浮き彫りになっています。昨年6月に強行された「共謀罪」法(組織犯罪処罰法)の危険性に警鐘を鳴らすものでもあります。(本紙・錦見友徳)

京都地方裁判所刑事部の予審調書=予審とは起訴された事件について、公判前に裁判官があらかじめ行う審理。現行の刑事訴訟法では認められていない。

 新村猛氏を治安維持法違反の被告人とする戦前の裁判資料がありました。京都地方裁判所刑事部の予審調書です。新村氏の長女・原夏子さんの自宅(名古屋市名東区)で2014年秋、見つかりました。
 1937年、同志社大学予科の教授だった新村氏は、京都市の自宅から警察署に連行されました。警察に「共産党の拡大に協力した」とでっちあげられ、治安維持法の目的遂行罪にあたるとされました。
 取調べで新村氏は、「共産党とは関係を持ったことはない。まったくつながりもない」と否定しましたが認められせんでした。
 同時に見つかった弁護士の接見メモは「意図は全部あとより附加えられたるものにして其当時存在したるものにあらず」と調書の中身を否定しています。 しかし、京都地裁は39年に、懲役3年執行猶予5年を言い渡しました。
 当時、新村氏は、リベラル派の研究仲間とともに『世界文化』という雑誌に原稿を執筆。その中でヒトラーのナチスドイツに抵抗するヨーロッパ諸国の反ファッショ運動などを紹介していました。
 警察は、これを「共産党の目的遂行の為にする行為」と見なしたのです。
 安倍政権が2017年に強行成立させた「共謀罪」法は、治安維持法の現代版といわれます。
 政府は共謀罪による処罰の対象は「組織的犯罪集団に限る」と繰り返しました。しかし、国会審議ではどんな集団が組織的犯罪集団かはきわめて曖昧で、一般人が当局の判断次第で捜査や処罰の対象とされる危険性が浮き彫りになりました。
 原さんは、思想・信条の自由がおびやかされた暗黒時代の再来を危惧しています。

 

革新統一で愛知県知事選に

 新村氏は、敗戦後直ちに治安維持法の廃止を占領軍に要求しました。71年には革新統一候補として愛知県知事選に立候補。当時の桑原幹根知事に敗れはしたものの、名古屋市内で得票を上回り、その後の本山革新市政の誕生に道を開きました。

 

 【新村猛(しんむら・たけし)】1905年―92年。名古屋大学名誉教授、フランス文学者。父・新村出(いずる)と国語辞典『広辞苑』(岩波書店)を編む。

 

治安維持法と目的遂行罪

 治安維持法は1925年制定。「国体の変革」(天皇制の否定)をする者を取り締まった法律です。当時の日本共産党は同法により厳しく弾圧されました。28年の改悪で「目的遂行罪」が加わり、自由主義的な言論まで「目的遂行」につながるとされ、国民全体が監視・弾圧の対象とされました。同法は戦後廃止され、弾圧されたものにたいし「その刑の言渡を受けなかったものとみなす」とされました。