愛知民報

【12.04.15】書評 『必要か、リニア新幹線』(橋山禮治郎著、岩波書店) 冷静な検証に大きなヒント 評者:村瀬和弘(本紙記者)

 JR東海は2007年、全額自己負担でリニア中央新幹線(東京~名古屋)の建設を表明しました。直接の事業費だけで9兆円にのぼります。昨年5月、国土交通省はJR東海に中央新幹線の建設を指示しました。

 2027年のリニア中央新幹線の開通を前提に、中部財界と愛知県・名古屋市が一体となり、名古屋駅周辺の大規模再開発を推進しています。名古屋市は今年度、「リニア中央新幹線関連準備室」を設置します。

 『必要か、リニア新幹線』(橋山禮治郎著)は、リニア中央新幹線計画はどのような問題点をもっているのかを、採算、安全、環境の問題から冷静に検証しています。

 東海道新幹線はバイパスが必要なほど混んでいるのか。本書は座席利用率の低落を示し、「年末年始の混雑率120%」という報道は「これは自由席のこと」「でもそれは年間わずか10日程度」と指摘しています。

 JR東海は、リニア建設は「大動脈輸送の二重系化を実現し、将来のリスク発生(東海地震など)に備える」と説明しています。

 これに対し本書は、正面から反論しています。リニアに投資する余力があるなら東海道新幹線の耐震改修工事を優先すべきである、もし東海道新幹線が地震で寸断という事態になったとしても航空や建設中の北陸新幹線で対応できると主張します。

 リニア中央新幹線の8割はトンネルです。南アルプスを貫く長大な山岳トンネルや地下40メートルという大深度地下トンネルについてJRは「トンネルに並行して作業坑を掘り、通気口を兼ねた立坑、斜坑につなげ避難路を確保する」と説明しています。しかし、建設ルートには断層地帯もあり、岩盤崩落や異常出水の危険性も指摘されています。本書は、脱出路の確保という安全面で強い疑問や、環境負荷の問題も提起しています。

 本書は、リニア中央新幹線はJR東海という民間企業が建設するといえ、トヨタ自動車が工場をつくるのとは性格が違うといいます。鉄道には社会インフラを担う公的性格があります。リニア開発費という名目ですでに国の補助金が投入されています。本書は「?夢の超特急?という言葉にマインドコントロールされていないか」と警告しています。リニア問題を冷静に、あらゆる側面から検証することが政治、行政、国民に求められます。本書はその大きなヒントを与えるものです。