愛知民報

【10.07.11】設楽ダム訴訟 「行政追随の不当判決」 名地裁、支出差止認めず

 国が設楽町に建設を計画している設楽ダムの建設費を愛知県が負担するのは違法だと支出差し止めを求めた住民訴訟は6月30日、名古屋地裁で判決がありました。

 判決は、住民が問題とした県の過大な水道用水の需要予測について「実際の需要量は県の想定量に達しない可能性が相当高い」と指摘したものの、「ダム建設は合理性を欠くものではなく、県が負担するのは違法ではない」と住民の訴えを退けました。

 原告住民らは「過大な水需要予測を認めながら建設を容認した行政追随の不当判決は許せない」として控訴しました。

設楽ダム 不当判決と今後の課題 住民訴訟原告 市野和夫さん

 設楽ダム公費支出差し止め請求訴訟の名古屋地裁判決(愛知民報7月11日号既報)について原告の市野和夫・元愛知大学教授に聞きました。

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 6月30日、裁判長が原告の請求棄却の判決言い渡すと、満員の傍聴席は、落胆と怒りでいっぱいになりました。

 私たち原告168名は、2007年4月の提訴から丸3年の間に19回の口頭弁論(内4回は証人尋問)を通じて、水余りで設楽ダム建設は不要であること、ダムは治水の切り札ではないこと、ダム建設によって流況改善どころか大きな環境破壊が生じること、その影響は三河湾まで及ぶことを証拠を添えて明らかにし、被告愛知県に対し設楽ダム建設事業への負担金の支出差し止めを求めました。

 判決は、事業者の国と愛知県の言い分をなぞっただけで、原告側が明らかにした事実や証拠に触れることなく、棄却の結論を出しました。まったくの行政追随判決で、裁判所本来の仕事を放棄したものです。

 判決の中でただ一点、豊川水系の将来の水需要については原告側の主張に沿い、「過去の実績に照らして考えると、2015年度における実際の水道用水(および工業用水)の需要量は、愛知県需要想定調査の需要想定値に達しない可能性が相当高いものと思われる」としました。これは、控訴審や国による設楽ダム事業の見直しの際に、中止に向けての一つの手掛かりとなる可能性があります。

 設楽ダム計画を盛り込んだ豊川水系河川整備計画が策定されたのは、豊川総合用水事業が完成する直前の01年11月でした。同事業による水源拡充前の水需給データをもとに「豊川水系は水不足だから設楽ダムが必要だ」との議論が誘導されたのです。

 06年2月に全部見直しされた豊川水系水資源開発基本計画の審議においても、実際には“水余り”になっているのに、国は従前の「水不足」のデータを使い続けました。

 原告側は、国の天然記念物で絶滅危惧種のネコギギの生息地が破壊され、移植では生息が保障されないこと、設楽ダムの不特定容量6000万立方メートルの貯水により三河湾の貧酸素が促進されることなども明らかにしました。

 今後、これらの内容を広く県民、国民に知ってもらい、建設反対の広範な世論を形成し、事業推進の息の根を止めるまで追い込むことが必要です。

 平和・人権・生活・福祉・環境を守る県民運動、国民運動と連帯し、設楽ダム建設の中止を実現していきたいと思います。