愛知民報

【09.05.17】インタビュー 『南区の公害史』の編著者 伊藤 栄さん

埋もれた問題も発掘 公害ない地域は可能

 
 あおぞら裁判が2001年に勝利和解で終わり、南区公害病患者と家族の会総会で『南区の公害史』を作ろうと決めました。

 私が執筆編集責任者になり、発行時期は南区制100周年の08年度中とし、作業をすすめました。資料集めや100人近い人からの聞き取り調査を行いました。

 伊勢湾台風で資料が散逸していたので、当時の新聞記事を探し、整理することが一番大変な作業でした。書きあげるまで丸5年かかりました。

 埋もれていた公害問題にも論及しました。たとえば南区の埋立地にあった王子製紙による海の水質汚濁や井戸枯れです。漁民や住民が王子製紙に押しかけました。これが水道を引く運動になりました。

 南区は、全国で初めて新幹線公害反対運動が起きた地域です。地域のすごいエネルギーを結集すれば、公害のない南区をつくることは不可能ではないと感じました。

 『南区の公害史』は、総論編、地域別編、分野別編、年表編の4分冊で、総計650ページです。

 総論編には、公害発生源の被告企業が労使一体で地域を支配した経過や企業内でレッドパージをおこなったことも含めて記述しています。

 年表は明治初期から始まり、地域の小作争議や労働争議、足尾鉱毒事件や水俣病など全国的公害問題の支援集会が名古屋で開かれたことも入れました。

 専門家から「学際的にも役に立つ」との評価や「国内や他の地域の運動の教科書になる」というおほめの言葉もいただいています。

 地域別編では南区を5つに分け、地域ごとにどんな公害があったか、わかるようにしました。

 南区制100周年の期間中の3月6日に出版できました。

 愛知県、名古屋市、全区役所、国会、県立、名古屋市立のすべての図書館、南区内の学校と被告企業にも贈りました。

 学校から「すごい資料だ。図書室に置く」といわれています。

 広く読んでいただいて、公害をなくす共同の運動を前進させたいと思っています

あおぞら裁判

 
 工場や自動車の排出ガスによる大気汚染から「ぜん息」などの呼吸器系疾患に苦しむ名古屋南部の住民たちが、中部電力、新日本製鐵、東レ、愛知製鋼、大同特殊鋼など公害発生源の11社と国道23号(名四国道)の設置管理者の国を相手に、損害賠償と公害排出差し止めを求めた裁判。1989年、名古屋地裁に第1次提訴。97年の第3次提訴まで原告総数は291人。2000年11月27日、名古屋地裁は加害責任を認め原告勝訴の判決を出しました。2001年8月8日、被告企業、国との間で和解が成立しました。

問い合わせ先

南区公害病患者と家族の会 名古屋市南区三吉町2―30
TEL052・611・2998。FAX052・611・2977