愛知民報

【08.12.14】1000億円のリニモなぜ苦境 “走るパビリオン”の破たん 

 2005年の愛知万博で名古屋市内から会場へのアクセスとして利用されたリニモ(東部丘陵線)を経営する愛知高速交通株式会社(社長・神田真秋愛知県知事)が2007年度決算で約68億円の累積赤字を抱え、来年度には債務超過に陥るとみられています。県は税金投入で支援する方向ですが、交通企業として自立できるはずだったリニモがなぜ苦境に陥ったのか。県議会で計画を批判する立場から論戦した日本共産党の林信敏元県議に聞きました。

需要予測 ありえない数字 林信敏元県議

ガラガラで走るリニモ
 ――万博後、リニモの利用者が激減し、需要見通しの甘さが指摘されていますが。
 日本共産党は、県議会など関係議会で計画段階から需要予測が過大だと批判してきました。行政内部や鉄道関係者の中にも需要予測や採算を疑問視する声がありました。リニモの採算の前提は1日当り3万2千人の利用者数です。これはどう見てもありえない。「万博が終わればガラガラになる」という私たちの指摘が現実になりました。前提が狂えば、採算見通しも崩れます。

 ――なぜ、現実無視の需要予測がされたのでしょうか?
 リニモを「万博の目玉に」という声が財界から出ました。リニモをめぐる条件が変わったのに、万博に間に合わせるために都合のいい数字を並べて暴走しました。万博計画が変わり、瀬戸市海上(かいしょ)地区の万博会場跡地に2千戸6千人の「未来交流都市」をつくる構想は消えました。乗客の多数を占める学生も減少傾向にあった。

 ――万博前にリニモ建設計画そのものを見直すべきだったと。
 そうです。日本共産党は万博向けのリニモ建設計画の白紙撤回を求めました。もともと東部丘陵地域の新しい公共交通機関の整備計画は万博とは無関係でした。かつては地下鉄東山線の延伸構想もありました。目先の万博の「走るパビリオン」ではなくて、地域の公共交通体系をどうつくっていくか、住民・利用者の参加で十分検討すべきだったと思います。

 ――議会のチェック機能は働かなかった?
 無謀な計画に反対したのは日本共産党だけでした。自民、民主、公明各党は賛成・推進でした。いま、一部県議から「清算した方がいいのでは」という声が出ているそうですが、無責任のきわみです。神田県政、松原名古屋市政、オール与党、あと押しした自民党政府の責任が問われています。

 ――今後、リニモをどうすべきだと。
 需要予測が狂い赤字まみれで廃止になった小牧の桃花台線ピーチライナーの二の舞にしてはいけません。自動車王国の愛知で、めずらしい電車を1本走らせれば客が集まるというわけではない。リニモの現状は地域住民の「生活の足」になっていません。リニモを地域の大切な公共交通機関に位置づけ直すことが必要です。関係自治体、国、出資企業が事業継続の責任を果たすことが求められます。自動車に頼らなくても、リニモを含めた公共交通機関で安全・便利・快適に移動できる地域社会を住民参加でつくっていく、そういう町づくりの取り組みがリニモの利用拡大につながると思います。

リニモ(愛知高速交通東部丘陵線)

 名古屋市名東区の地下鉄・藤が丘駅と愛知環状鉄道・八草駅間約9キロを結ぶ東部丘陵線。リニモは愛称。磁力でレールから約8ミリ浮上して走行する世界初の実用リニアモーターカーを使用。総事業費は約1千億円。愛知県、名古屋市など沿線自治体と名鉄、トヨタなど民間企業19社が出資する第3セクター・愛知高速交通株式会社が運行している。