「歳を取って耳が遠くなった。補聴器を買いたいが高くて買えない」―。名古屋市で、中程度からの加齢性難聴者に対する補聴器購入助成制度を求める署名運動が広がっています。
名古屋市南区の耳鼻科の医師は「加齢性難聴は、60代後半で3人に1人、75歳以上で7割以上との報告もあり、誰でも起こる可能性がある」と指摘します。「踏切の警報機が聞こえず、電車にはねられる寸前だった」、「台風や地震の緊急警報が聞こえない」と慌てて診察に来た人もいます。補聴器を勧めても躊躇(ちゅうちょ)する人が多い」と話します。
最大の要因は補聴器の価格が片耳あたり数万円から数十万円と高額なことです。
補聴器を販売している眼鏡店の店員は「年金暮らしの人が多く『安い補聴器』を求める人が多い」といいます。補聴器メーカーの職員は「低価格の補聴器は必要な人の声だけでなく周りの雑音も拾う。人によって難聴の状態が違うので、調整と訓練が必要になり、高額になる。ぜひ助成制度を」と話します。
■ 認知症予防にも
現在は助成を受けるのに障害者手帳が必要で、重度の難聴者が対象。片耳だけでは受けられません。
障害者手帳を持たない高齢者に助成している自治体は、県内では北名古屋市だけ。70歳以上で、医師が身体障害6級相当と診断した人。所得制限なし。補助は購入費6万円以上の場合3万円など。
名古屋市では6月議会で、日本共産党のさいとう愛子議員が公的助成の創設を求めました。高齢者の声を紹介し、日常生活を不便にするだけでなく、うつ病や認知症の危険要子にもなると指摘。東京都江東区などの助成制度を紹介し、「高齢者の社会参加、交流促進で認知症予防にもなる」と助成制度の創設を強く求めました。
■ 市は冷たい答弁
ところが市は「難聴も認知症の危険要子の一つ」と認めたものの、「実施効果が明確でない」と冷たい答弁。
協立総合病院の堀井清一院長(内科医)は「難聴により対話・交流が少なくなり、引きこもりがちになる。補聴器による聞こえの補助は認知症を先延ばしにする介護予防の効果がある」と語ります。
名古屋市に助成制度の創設を求める市民は9月12日、「心地よい聞こえを支える会」を結成しました。結成集会では、「父が歯医者に行ったが医師の話が聞き取れず『ハイ、ハイ』と適当に返事したら、歯を抜かれた」、「安い補聴器を買ったが雑音ばかりで役にたたない。助成があれば、自分に合った補聴器を買う」の意見が出されました。11月市議会に向けて助成制度を求める請願署名をスタートしました。
同会は10月10日、港区で署名宣伝に取り組みました。山口清明前市議らは「世界保健機関は聴力が中程度からの補聴器使用を勧めています。加齢による聴力低下があっても早期のうちに補聴器を使えば聴力を取り戻せるといわれています。誰もが補聴器を購入できるように市の助成制度を設けましょう」と呼びかけました。
買い物帰りの女性(66)は「今はいいですが、将来に備え、助成制度があればいいですね」。子ども連れの女性(45)は「77歳の義父が難聴ぎみ。年金暮らしなので助成があれば補聴器を購入できます」と署名しました。
(11月2日 しんぶん赤旗)