政策

地球温暖化抑止、生物多様性の保全のために愛知の環境をともに守り、次世代に引き継ぎましょう―日本共産党の基本的考え方と共同の呼びかけ

日本共産党愛知県委員会

はじめに

2008年、地球温暖化抑止の国際協定である「京都議定書」が定めた温室効果ガス削減の「第1約束期間(2008年~2012年)」が始まりました。昨年発表された、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次評価報告書は、温室効果ガスの大量排出による気候変動の危機的な事態を指摘し、ただちに実効ある抑止策をすすめなければならないことを厳しく警告しています。

2008年5月30日、ドイツのボンで開かれた生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)で、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が名古屋市で開催されることが決まりました。生物多様性条約は、生物多様性を構成する遺伝子、生物種、生態系の多様性の保全を求めており、08年5月に成立した、生物多様性基本法は、乱開発による生態系の破壊、人間の手が入らないことによる里地、里山の質の低下、外来生物の影響という生物多様性保全における3つの危機と地球温暖化による重大な悪影響を指摘しています。

16年前の1992年、リオ・デ・ジャネイロで開かれた環境と開発のための国連会議(地球サミット)は重要な環境問題をテーマにした2つの条約を結びました。その一つは地球温暖化抑止を求める「気候変動枠組み条約」であり、もう一つは、「生物多様性条約」です。このことは、地球温暖化抑止と生物多様性の保全が切り離しがたく結びついていることを示しています。

現在の科学の知見でも明らかなように、地球の大気は地球誕生以降、変化してきました。豊かな海で育まれた生命が光合成を行い二酸化炭素の吸収と酸素の放出をすすめ、生命が陸上に進出してさらに光合成の促進と土壌が形成されることにより、海、川、森、土に二酸化炭素の吸収が進められる中で、現在の濃度に定着したといわれています。逆に、現在の大気成分が維持され、一定量の酸素と穏やかな温度の維持により、生物は爆発的に増え、多種多様な生物の呼吸と光合成のバランスによって、現在の気候が維持されているのです。

地球温暖化による生態系の破壊や生物種の減少が、二酸化炭素の吸収、吸着・固着化能力を減少させ、地球温暖化を加速させることにもなっています。

ところが、この表裏一体にある環境問題の2つのテーマを統一的にとらえるという環境政策の観点は行政レベルでは非常に弱く、愛知県の環境白書(平成19年版 2007年12月作成)、第3次環境基本計画(2008年3月策定)でも別個の課題として取り扱われています。

日本共産党は温暖化も生物多様性も人間の活動が大きな、そして後戻りできない影響を与えている点では同じであり、統一的に環境政策をすすめるべきであると考えます。

7月の洞爺湖サミットでは、地球温暖化問題が重要議題とされます。日本共産党は議長国である日本が実効ある地球温暖化対策を早急に確立し、それをただちに軌道にのせて国際的責任を果たすよう強く求めます。

2010年10月には、名古屋市でCOP10が開催されます。COP10の名古屋市開催を決めたドイツボンでのCOP9に参加した、神田知事や松原名古屋市長は、愛知万博の開催や、海上の森と藤前干潟の保全が評価されたと述べています。しかし、海上の森全体を万博会場とし、新住宅市街地開発事業や名古屋瀬戸道路建設で大切な里山を壊して、生態系の頂点にいるオオタカの営巣場所を奪い、一般廃棄物最終処理場を建設するために、世界有数の渡り鳥の飛来地・藤前干潟をつぶそうとしていたのが、神田知事や松原市長であり、これらの計画に賛成したのが、自民党、民主党、公明党の県政・市政の「オール与党」でした。

これに対し、万博会場計画の変更や「新住事業」中止、道路計画の変更、処分場建設の中止をかちとり、海上の森と藤前干潟を守ったのは、市民団体や県民の共同の運動でした。日本共産党も県民のみなさんと海上の森や藤前干潟を守るために力をつくしました。こうした県民の環境を守る積極的な活動が世界的に評価され、COP10の誘致が決まったのです。こうした私たちの体験は、環境保全の推進力が何よりも県民・住民の環境運動であることを示しています。

今日、国際会議を開催するにふさわしい環境保全の取り組みが求められています。日本共産党は、COP10を迎えるにあたって、(1)国際会議を通じて生物多様性条約の進歩的な理念、内容、実践を前進させ、実効ある地球温暖化抑止、地球環境と生物多様性の保全に貢献する、(2)国際会議の企画・運営に環境NGOや市民団体の参画をはかる、(3)環境破壊の大型開発事業中止、国や自治体の環境行政の検証と改善を求める、(4)国際会議に便乗した、行き過ぎた大企業支援、税金むだづかいの企画、不要不急の公共事業を許さないという4つの立場で臨みます。

日本共産党愛知県委員会は地球温暖化抑止と、生物多様性保全という重要な環境問題での愛知県の果たすべき役割について基本的考え方をまとめました。おおいに議論していただき、率直なご意見をいただきますよう心からお願いするものです。

第1章 愛知県の環境(温暖化、生物多様性を中心に)の主な実状について

愛知県は、太平洋に面し平野・半島・丘陵・山地・内湾・河川など変化に富んだ豊かな自然環境を有し、様々な野生動植物が生息・生育しています。2001年度の調査では、約7620種の動物と約3780種の植物が生息していることが明らかにされています。

森林面積は、21万9636ヘクタール(2007年3月末現在)で県土面積の42.5%をしめています。県内には、4つの国定公園と7つの県立自然公園があり、その総面積は県土の17.2%となっています。 また、水環境では、豊富な魚種と漁獲量があり、日本三大漁場の一つである伊勢湾・三河湾に面し、木曽川、矢作川、豊川をはじめとした多くの河川が森と海をつないでいます。湿地、湿原とともに藤前干潟(名古屋港)、汐川干潟(三河湾)、六条潟(同)など豊かな干潟が約2062ヘクタールもあります。

また、農業、林業、漁業など人間の経済活動とも深く結びついた、海上の森など里山と、里地、里海、里川を擁しており、この豊かな自然環境を将来にわたって守っていくことが求められています。

年々増加する温室効果ガス、二酸化炭素排出量

愛知県は2005年に「自然の叡智」をテーマに愛知万博を開催し、「環境先進県」をうたっています。名古屋市も「環境首都」を標榜しています。環境万博後の愛知県の環境の実状について考えてみたいと思います。

温暖化の問題では、温室効果ガスとりわけ二酸化炭素の排出量を大幅に削減することが求められていますが、残念ながら、愛知県の温室効果ガス、二酸化炭素の排出量は年々増加の一途をたどっています。公表されている最新の2004年度の調査結果では、温室効果ガスの総排出量は8730万3千トン(CO2換算。1日あたり名古屋ドーム72個分の排出がされていることになります)、うち二酸化炭素の総排出量8238万1千トンとなっています。これは、京都議定書が定めた基準年である1990年の排出量に対し、温室効果ガスで9.9%増、二酸化炭素で12.7%増という結果になっています。愛知県は全都道府県の中で最も排出量が多い県となっており、日本全体が、京都議定書が定める2012年までに90年比で6%削減するという目標に逆行し、2006年度は6.2%増という結果になっていることから考えると、愛知県の果たすべき責任が重大であることは明らかでしょう。

名古屋市では、ヒートアイランド現象も考慮に入れる必要はありますが、1900年と2000年の100年間の平均地上気温を比べると、約1.7度上昇(日本の平均地上気温は100年間で1.1度上昇。IPCC第4次評価報告書では、この100年間に世界は0.74度上昇)しています。もし温暖化により、21世紀中に59センチ(IPCC第4次評価報告書の予測の最大値)海面が上昇した場合、名古屋港に面する名古屋市を中心とした地域で、高潮によって被害が予想される地域は878平方キロメートル(在住人口約226万人)に及ぶことになります。また、強大化する台風災害や真夏日の増大による熱中症や感染症の増加などが予想され、、高潮対策や医療対策に多大な費用が必要とされるでしょう。

愛知県における温室効果ガスの94%余を占める二酸化炭素の排出源を部門別にみると、産業部門が53.4%(2004年度)と圧倒的です。全国の割合(2006年度)が36.1%ですから、愛知県の高さが際立っています。さらにオフィスや運輸など企業の活動全体による排出は80%を超えています。とくに愛知県はトヨタ自動車をはじめとした自動車産業など製造業がさかんであり、地球温暖化対策法にもとづいて公表されたデータや気候変動ネットワークによる推定値では、事業所別にみるとエネルギーと原材料を供給する電力や製鉄分野の比重が大きく、全国一の排出量の中部電力碧南火力発電所や全国9位の新日本製鐵名古屋製鉄所を擁していることが大きな要因となっています。温暖化対策を効果的にすすめるには、大企業による二酸化炭素の排出量の大幅削減と再生可能エネルギー(自然エネルギー)への転換が大きく求められています。

開発事業による生物種、生態系の危機

愛知県は、道路建設日本一の異常な開発型県政となっています。この間、愛知万博を契機にして、中部国際空港、徳山ダム、名古屋瀬戸道路の建設、第2東名高速道路建設の促進など様々な大型開発事業を推進し、今日も、「ポスト万博」の名のもとに、設楽ダム、徳山ダム導水路、伊勢湾口道路、中部国際空港第2滑走路建設、トヨタ自動車テストコース整備など新たな大型開発計画が目白押しとなっています。また、税の減免や補助金など大企業の県内立地促進の優遇施策を進める中での名古屋駅前を中心とした大都市での大企業超高層ビルの乱立、地域環境と採算を度外視した駅前再開発についても見過ごせません。こうした開発事業によって、大切な自然環境、地域環境がこわされてきました。

2007年にまとめた、あいちの「第2次レッドリスト」によれば、動物22種、植物43種が絶滅しており、絶滅のおそれのある種は動物で275、植物で489となり、それぞれ県内確認種の3.6%、12.9%に及んでいます。こうした生物種の保全が求められていますが、逆に、2005年に開催された愛知万博のための会場整備で、オオタカの営巣の減少、自然植生のシデコブシやモンゴリナラ、サクラバハンノキなど6000本の木が伐採され、ギフチョウ、ハッチョウトンボ、ダルマガエルなどの生息数も大幅に減り、イタセンパラは生息を確認できなくなりました。さらに愛知県は、愛知県内の特定の河川環境でしか生息していない天然記念物ネコギギ(ナマズの1種)の生息環境を奪う設楽ダム建設、絶滅危惧種のサシバ(ワシ・タカ類)の餌場である水田などをつぶすトヨタ自動車のためのテストコースの用地造成(660ha)をすすめようとしています。

水環境の悪化も同様です。中部国際空港建設は空港島周辺にヘドロを堆積させ、伊勢湾における赤潮、苦潮の発生を促進しました。赤潮の発生のべ日数は1973年の52日から06年には5倍の264日となっています。その結果、近年、ナミガイ、タイラギなどの貝類が激減していることが潜水漁業の漁民から報告されています。県内唯一の自然湖・油が淵(碧南市)もダイオキシンなど水質汚濁が続いています。

生物種の減少だけではありません。生物種の多様性を保障する生態系も危機的状況にあります。開発によって、森林面積が90年と06年を比べると1600ヘクタール消失し、森林の荒れを原因とした、鳥獣による農作物被害が近年、中山間地で多発しています。また、農業経営の困難さから、販売農家が激減し、水田面積は90年と06年を比べると、2500ヘクタール減少しています。

モータリゼーション(自動車社会化)や大企業の利益優先のもとでの地域環境の悪化

愛知県は自動車の生産台数、保有台数とも全国一であり、先に述べたように次々に道路建設がすすめられた結果、自動車走行量は大きく伸びています。窒素酸化物の36%、浮遊粒子物質の46%を自動車が排出しており、自動車ごとの排出ガスの規制がされ、低排出ガスを含むエコカーの普及が178万台(06年度末)になったといっていても、二酸化窒素、浮遊粒子物質の年平均値は「ここ数年横ばい」(07年版県環境白書)にとどまっており、一般環境大気測定局がほとんど100%の達成率に対し、自動車排出ガス測定局での環境基準の達成率(06年度)は、それぞれ89%(全国平均は91.3%)、93%(全国平均は93.7%)にとどまっています。とくに、自動車の排出ガスだけでなく工場のばい煙とも関係する光化学オキシダント濃度は、すべての測定局で環境基準を超え、達成していません。近年、光化学スモッグの予報、注意報の発令日(07年度 10日)は増えており、目やのどの異常を訴える健康被害も多数発生し、07年6月末には、豊橋市、田原市において光化学スモッグによる被害が771名みられた(新しい政策の指針 平成19年度版年次レポート)とされています。

PRTR法による有害化学物質の届出排出量は減少傾向とはいうものの、06年度の届出排出量は全国一となっています。工場の跡地のトリクロロエチレンなど化学物質による土壌汚染は県内各地で報告され、05年度は1100件を超えています。また砒素やフッ素を含むフェロシルトを埋め戻し材として県が容認したことにより、大量に使用され今日も全量撤去されずに残されています。

一般廃棄物の総排出量は横ばいで推移していますが、産業廃棄物の発生量は増加傾向にあり、全国5位(2004年度)の産廃大県として、不法投棄や過剰保管があとをたちません。沈静化はしているものの工場などによる過剰揚水による地盤沈下は現在もみられ、愛西市の木曽川右岸部(福原新田町)では過去5年間で5・11センチ沈下しています。

第2章 行政の環境施策の問題点について

このような由々しき環境の現状は、これまでの愛知県の行政の責任が大きく問われるものです。環境を守るといいながら、環境悪化をすすめてきた愛知県の環境施策にはどのような問題があるのでしょうか。

多彩な条例、計画はあるが、実効性は貧弱

神田知事は「環境先進県」をめざすと言っています。環境基本条例、県環境影響評価条例、県民の生活環境の保全等に関する条例、県産業廃棄物税条例などの条例や、県窒素酸化物及び粒子状物質総合対策推進要綱、県化学物質適正管理指針、自然環境の破壊の防止等のための勧告・助言基準、県環境基本計画(第3次計画を2008年3月に策定)、あいちアジェンデ21、あいちアクションプラン(愛知県庁の環境保全のための行動計画)、愛知地域公害防止計画、あいち地球温暖化防止戦略、あいち新世紀自動車環境戦略、あいちゼロエミッション・コミュニティ構想、あいち水循環再生基本構想、自然環境保全等基本方針など、温暖化抑止や自然保護にかかわる多彩な計画が策定されています。しかし、これらの施策は国の法令や通達、通知にもとづいて具体化されたものがほとんどです。県独自に環境を守るイニシアチブが十分発揮されない中で、これらの施策の実効性は極めて貧弱といわざるをえません。

環境保全より大企業の利益第一主義、大型開発の方が優先

なぜでしょうか。県環境基本条例では、第3条で県の責務として、「環境の保全に関する基本的かつ総合的な施策を策定し、及び実施」とあり、第5条で事業者の責務として、事業活動をおこなうにあたっては「公害を防止し、又は自然環境を適正に保全するために必要な措置を講ずる」、第6条で県民の責務「県が実施する環境の保全に関する施策に協力する」を定めています。さらに、第12条では「県は、公害を防止し、及び自然環境を保全するため、必要な規制の措置」を講ずるとし、第13条では、環境保全をすすめるために、事業者や県民に適正な経済的な助成や経済的な負担を課するという、経済的措置を講ずるとしています。しかし、これらの大事な規定は具体化されなかったり、骨抜きにされて具体化され、環境保全と矛盾する大企業の利潤第一主義の活動や大型開発計画が優先されているからです。

環境対策がすすまない根本にある、大企業の利益優先県政とオール与党政治

このように、温暖化対策をはじめ愛知県の環境対策がすすまない根本には、大企業の自主的な努力まかせにし、大企業にはっきりとものがいえない行政の姿勢と、企業戦略としての環境ビジネス対策を重視はするが、県民のための環境保全よりも目先の利益を優先し、環境問題に真摯にとりくまない中部財界の姿勢があります。同時に、こうした中部財界の意向にそい、県民生活をないがしろにする県政をすすめている、神田知事と、自民党、民主党、公明党の県政オール与党の政治があります。

県民のための環境対策を促進していくためにも、大企業と神田オール与党県政への県民の批判と監視を強め、県民の積極的な取り組みによって、大企業に社会的責任を果たさせ、県政の転換をはかることが大切となっています。

第3章 日本共産党の基本的考え方

日本共産党は、愛知の環境保全をすすめる上で、以下の4つの柱が重要と考えます。

第1に、県の環境基本条例を、今日の地球温暖化抑止の科学的知見や施策に照らして、抜本的に見直し、「持続可能な社会経済システムへの転換」を明記して、生産・消費のそれぞれの段階での転換を求めることを明確にすべきだと考えます。そのうえで、基本条例を県の他の条例の上位の条例として位置づけ、環境保全の見地から、県の様々な計画、施策を再検討し見直しをすすめ、安易に「公共の福祉」の名で環境保全に矛盾する計画、施策をすすめないようにすることが大切です。策定をめざしている「あいち自然環境保全戦略」を実効あるものにしていくとともに、環境関係の条例、要綱、指針を見直し、環境施策をすすめるために大胆な予算措置が必要です

第2に、環境保全をすすめる手法として、温室効果ガスの排出の主な原因となっている産業部門での抑制をはかるために、行政のイニシアチブによる規制や県民による監視など大企業に対する民主的な規制を積極的にすすめることが大切です。

第3に、たとえ進行中のものであろうと、環境破壊の浪費型の大型開発事業や、地域環境を悪化させる都市開発・地域開発は、中止を含めて見直しをはかり、地域の経済活動と地域の特性を生かした環境や生態系の保全の両立をめざすことが大切です。

第4に、愛知の環境保全は、行政がイニシアチブをとることは当然ですが、大企業が社会的な責任を果たし、県民が積極的に取り組むことが不可欠です。非政府組織(NGO)や非営利民間団体(NPO)が、環境保全計画や施策の検討段階から実施まで、積極的にかかわれる仕組みをつくることが大切です。

日本共産党は、この4つの柱を軸に、地球温暖化抑止と生物多様性の保全をすすめる環境施策のために、5つの提案を行います。

第1の提案 温室効果ガス削減と再生可能エネルギーへの転換を促進するため、実効ある地球温暖化抑止条例を策定し、大企業の事業活動への民主的規制をつよめます

(1)実効ある地球温暖化抑止条例を策定するうえで、相対的にいって先進的な東京都の条例(都民の健康と安全を確保する環境に関する条例)や方針(地球温暖化指針 再生可能エネルギー戦略)と地球温暖化対策法の実施に基づいて充実、作成された愛知県の県民の生活環境の保全等に関する条例(生活環境保全条例)とあいち地球温暖化防止戦略について、比べてみましょう。

東京都の条例は、科学的知見にもとづく地球温暖化対策指針の策定を定めています。温室効果ガスを一定数以上排出する事業者は、指針に基づいて温室効果ガスの排出状況報告書と地球温暖化対策計画書の提出を義務づけられます。知事は指針にもとづいて、計画書に対し指導や助言ができ、事業者は指導、助言を踏まえた計画の見直しと計画の再提出が求められます。事業者は計画年度の中間年度で対策の結果の報告が求められ、知事は中間年度の結果を指針に照らして検討し、指導・助言を行います。事業者は指導・助言にもとづき計画を見直し、計画の再提出を義務づけられます。事業者は計画終了にともなって結果報告書の提出と公表が求められ、知事は指針に照らし結果を評価し、優良であると認める事業者について評価の内容を公表します。知事は、計画の提出や指導・助言にもとづく見直しがされなかったものに勧告ができ、必要な場合は事業者の同意のもと、立入調査ができるとしています。

この条例は6月25日の都議会で全会一致でさらに改正され、都はエネルギー使用量が一定以上の約1300カ所のビルや工場などの事業所について、個別の排出量を2020年度までに、最近3年間の平均値より15-20%削減することを目指し、08年度末をめどにビルや工場などの部門ごとに削減義務率を設けます。年間の削減実績が明らかになる11年度から、事業所間の排出量取引もおこない、排出量取引を通じても削減義務量をクリアできない事業所には措置命令を出し、それでも達成できない場合は50万円以下の罰金を科すとしています。

これに対し、愛知県の生活環境保全条例では、県として温室効果ガスの排出の抑制の計画の設定、特定の事業者に対する温暖化対策計画書の作成と公表(努力義務)、温暖化対策実施状況書の作成、計画書及び実施状況報告書を提出しない事業者への知事の提出勧告が決められています。この条例をもとにした、あいち地球温暖化防止戦略では、産業部門への重点施策は、CO2排出削減のマニフェスト(事業者の自主的計画)を100事業所の提出(計画が実行されなくても、県には指導、勧告、命令の権限もなく、罰則もありません)をめざすことと、「地球温暖化対策計画書」制度の推進となっています。このマニフェストは07年度末までに37事業所で出され、「計画書」制度は計画書を提出すればいいだけのものとなっています。

「再生可能エネルギーへの転換」でも同様です。東京都の再生可能エネルギー戦略では、2020年までに東京のエネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を20%程度に高めるという数値目標をかかげ、そのための施策として、家庭や運輸部門だけでなく、産業部門、業務部門に対しても、バイオマス燃料の利用や転換、事業所敷地内での再生可能エネルギー発電、グリーン電力証書の活用を求めています。愛知県の「再生可能エネルギーへの転換」では、転換目標はなく、水素エネルギーや燃料電池を中心とする新エネルギー関連産業の振興が強調されるとともに、エコカーの普及(10年度末までに300万台)、燃料電池の設置基数の増加(10年度末までに1000基 06年度末現在 88基)、太陽エネルギー利用施設等の設置基数の増加(10年度末までに100万基 06年度末現在 約10万基)など家庭や運輸部門の対策に限られています。

このように、愛知県の地球温暖化抑止対策の条例と方針は大きく遅れています。

(2)現在の県の生活環境保全条例に記述されている地球温暖化抑止施策について、東京都の条例も参考にして充実させたうえで、独立した条例を策定し、「あいち地球温暖化防止戦略」を見直します。県の削減目標(現行は1990年度比で6%削減)にもとづき産業ごとの温室効果ガス削減目標(温室効果ガス削減の総量、生産量あたりの削減目標、エネルギー消費の全体量と生産量あたりの削減量)を定めた指針を作成し、県内で温室効果ガスの排出量が一定基準以上の企業は、指針に基づいた計画書を提出し、県が中間での点検、指導、助言をします。計画書をつくるにあたって、エネルギーの二酸化炭素(又は炭素)換算数を電力会社を含め、すべての企業に公開させます。計画書及び結果にもとづいた評価を県が行い、広く県民に公表します。また、排出量の受給状況に関する情報公開を徹底し、県内における排出量取引市場の創出につとめ、計画に基づく目標の実現にあたっては排出量取引を認めるようにします。ただし、実際に排出量の裏づけのない取引きは規制し、排出量取引きの割合についても上限を設けます。排出量取引した上でも目標を達成できない企業には、是正措置を講じ、それでも達成できない場合は罰金を課します。

二酸化炭素の排出量の大きい企業にエネルギーの転換を求めます。例えば、中部電力や新日本製鐵には燃料転換、高効率設備の導入、再生可能エネルギーの大幅引き上げなどによる二酸化炭素排出量の大幅削減を求めます。

企業活動に傾斜をかけた炭素排出にもとづく地方環境税を創設し、再生可能エネルギー導入への財政的支援を行います。地方環境税については、低所得者、医療・福祉・教育施設、公共交通の燃料、中小・零細企業、食料自給にかかわる農業・漁業などについて適切な負担免除・軽減措置をとります。

愛知のエネルギー消費にしめる再生可能エネルギーの割合の目標値(2020年までに約20%)を定め、目標値達成のための具体的対策をすすめます。電力会社に対し、目標にみあう再生可能エネルギーの購入や固定買い取り制度の導入をすすめる公的協定の締結をすすめます。風力発電の低周波対策に必要な予算をつけ、大型だけでなく小型の発電機の計画的配置、太陽光・太陽熱発電、小水力発電、地熱、水素エネルギーの利用の促進とバイオマス燃料への転換の促進をはかります。役所や公的施設の再生可能エネルギーの導入、地域エネルギー利用システムの構築、一般廃棄物や間伐の木材など地域資源循環利用システムの整備をすすめます。

原子力発電は、十分な安全の保証がなく技術的に未確立であり、放射性廃棄物の処理に万年単位でかかるので、再生可能エネルギーとはいえません。

県内の軍事基地である自衛隊基地や名古屋港での自衛隊活動や米軍の活動は、二酸化炭素の無駄な排出にほかなりません。県内における米軍の活動を禁止するとともに、自衛隊の活動の縮小を求めます。

第2の提案 無駄な大型開発、効果の薄い地域開発を中止し、生物多様性の保全すべき目標、指標を明確にした、保護種、保護区域の拡充強化を行い、農林漁業を振興して、地域の自然環境の保全、森林整備、水田保全をすすめ、里山、里地、里川、里海を守ります。

設楽ダム、徳山ダム導水路計画、中部空港第2滑走路、伊勢湾口道路など幹線道路、高規格道路計画やトヨタ自動車のテストコース整備の中止など、自然環境や生態系を破壊する浪費型大型開発を中止を含めて見直します。都市再開発、駅前再開発や区画整理事業などについて、住民の要求と自然保護を視点に入れた効果を検討して見直します。開発による環境破壊での生物多様性の損失に歯止めをかけるとともに、県内の保全すべき生物の多様性について、遺伝子、生物種、生態系のそれぞれの段階で目標、指標を明確にして、保護種、保護区域の拡充強化を行います。

環境アセスメント制度を改善し、政策・計画段階での「政策の計画段階からの環境アセスメント(戦略的アセスメント)」を導入し、これまでの開発計画を含め計画段階に対する「時のアセス」の適用の実施をめざします。

温室効果ガスの直接削減に役立たず、大衆増税となる「あいち森と緑づくり税」(森林環境税)は撤回し、大胆な予算と人員配置をおこなって、植樹・人工林の間伐など森林の整備と、川や湖沼の浄化、伊勢湾・三河湾の再生など森、川や湖沼、海をつなぎ一体のものとしての環境保全をすすめます。自然公園の整備、市街地や工場跡地の緑化も推進します。

価格保障や所得補償など日本共産党の「農業再生プラン」にもとづく農業再生や、数値目標の設定よる公共事業での県内産木材・木製品の利用や需要の拡大、所得補償などによる林業の振興、魚価の安定、販路の拡大、燃油価格の安定・引き下げなどによる沿岸漁業、近海漁業の振興をはかり、海上の森などの里山保全、水田の保全、耕作放棄地の活用による里地保全、県内を数多く流れる里川、藤前干潟、汐川干潟、六条潟など干潟を含め里海の保全をすすめ、地域環境と生態系を守ります。遺伝子組み換え農産物については、遺伝・慢性毒性、環境への影響に関する厳格な調査・検証を行います。

第3の提案 「中小企業を主役」とした、環境保全と経済活動の両立をめざすバランスのとれた産業構造への抜本的転換をはかって、公害をなくし、地域環境の改善をすすめます。

国土の保全をはかる農業、林業、漁業振興に特別な力を入れ、バランスのとれた産業構造への転換を促進します。環境マネジメント導入への支援や省エネ、環境保全技術創出への補助を積極的にすすめるなど環境保全と経済活動の両立をめざす中小企業への支援策を充実します。

大気汚染物質や化学汚染物質の排出、地下揚水を行っている大企業に対し、大気汚染防止、化学物質汚染防止対策、地盤沈下対策の強化を求めます。ゴミの拡大生産者責任の制度化を国に求め、ゴミの総量を減らします。県外からの産業廃棄物の流入を抑制するとともに、産業廃棄物の不法投棄や違法管理を厳しく取り締まります。

幹線道路・高規格道路建設は中止して、自動車走行の総量規制をすすめます。エコカーの普及やカーシェアリングをすすめるとともに都市部への流入を防止するパーク&ライドをすすめ、LRTや小型の燃料電池バスなどきめ細かな公共交通網の整備をすすめます。都市部における超高層ビルディング建設の制限や、屋上・壁面の緑化、建物のエコ化を促進します。都市緑地の増加、省エネ、再生可能エネルギー導入を促進し、地域環境の改善をすすめます。

第4の提案 県民への環境に関する情報公開を徹底し、行政と企業、県民が協力・協働の立場で環境対策の企画立案、実施、検証をすすめます 企業の環境情報を含めて、あらゆる環境情報を遅滞なく県民に公開できるようにします。非政府組織(NGO)や非営利民間団体(NPO)の活動への支援を強めるとともに、行政と企業、県民が協力・協働の立場で環境対策の企画立案、実施、検証をともにできるような仕組みをつくります。

第5の提案 「大量生産、大量消費、大量廃棄」システムからの脱却、「人にやさしく環境をだいじにする愛知」をつくるために県民合意をめざします 県民が省エネや温暖化抑止に務め、自然環境の保全をすすめるためには、県民自身の経済的、時間的保障がなされることが不可欠です。そのために、1日8時間、週40時間労働の確立と最低賃金時間1000円以上など人間らしい働き方のルールの確立をめざし、大企業への働きかけを行います。また、24時間営業の大型店、コンビニストアーを制限し、夜の一定時間までの営業の推奨をはかります。

省エネ型の生産システムの確立につとめ、約2台で、家庭1戸あたりの消費電量を費やす自動販売機のエネルギー効率の向上と自販機の段階的な削減をすすめます。すべての商品に、流通も含めて二酸化炭素排出量のわかる環境ラベルを表示させます。トップランナー(エネルギー効率が高い製品)のレンタルなど省エネ商品の普及につとめます。地産地消・旬産旬消による学校給食の普及や小売市場の創設をすすめます。

大型焼却炉によるごみの”焼却中心主義”から脱却して、ゴミ分別を徹底し、小型の焼却場でも有毒物質の排出なく焼却できるようにして、エネルギー消費量の多い大型溶融炉建設によるゴミの焼却をやめます。

環境保全をライフスタイルとできるように、学校や公的施設での環境学習の促進をはかります。

おわりに

環境の世紀をむかえ、愛知県の実状にたって、環境保全をすすめるための日本共産党の基本的な考え方の4つの柱と5つの提案をさせていただきました。環境保全の取り組みは文字通り党派をこえた次世代への課題です。県民のみなさんから、私どもの考えに率直なご意見をいただけることを期待するとともに、次世代に愛知の豊かな環境を引き継ぐ運動に共同して取り組んでいただくことを心から呼びかけるものです。

以上