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【02.11.17】名古屋GA空港の行く末は〜広島西飛行場を訪ねて

林のぶとし(愛知県議会議員)

2002年11月17日・24日 「愛知民報」

中部空港の開港で“その他飛行場へ” 

 愛知県は、中部国際空港開港後、国が管理する第2種空港である現名古屋空港を廃止し、この跡地をコミューター航空を扱う小型機飛行場とする構想の具体化をすすめています。

 私は10月16日、広島県営の広島西飛行場を訪ねました。この飛行場は「全国初の都市間コミューター・小型機専用飛行場」(同飛行場対策協議会パンフレットより)です。

 コミューター航空とは、小型機で旅客を運ぶ航空路線です。離島や地方都市間で運航されています。

小型機専用で施設持て余す

 広島西飛行場は広島駅から同飛行場行きのバスで40分足らずのところにあります。広島湾に突き出た太田川放水路沿いの埋立地にあって、その南端から瀬戸内海を望むと安芸の宮島がほぼ正面に位置しています。

 面積約49ヘクタール、長さ1800メートル、幅45メートルの滑走路1本の飛行場です。名古屋空港の面積約210ヘクタール(国土交通省管理分)、2740メートルの滑走路と比べると、「小さいなあ」という印象です。それでも、小型機専用飛行場としては日本一大きく、施設を持てあましている感じです。

 それもそのはずで、広島西飛行場は1961年から93年までは運輸大臣が設置管理する第2種空港であり、中型のジェット旅客機が就航していたのです。

 ご多分にもれず地元財界や自民党主導の自治体から地方振興のための開発プロジェクトとして新空港建設を求める声が上がり、国は第5次空港整備五箇年計画(86年度〜90年度)で新空港の建設と広島空港の廃止を決定しました。

 廃止後の空港跡地利用について地元財界と自治体は、国にたいしコミューター航空など小型機飛行場として空港機能を存続させるよう要請しました。運輸省(当時)は93年6月、広島西飛行場の設置を許可。同年10月、旧広島空港は小型機専用飛行場の広島西飛行場として再出発しました。広島西飛行場は現在、広島県を設置・管理者とする県営飛行場です。

 空港整備法は、国際航空路線に必要な飛行場を第1種空港、主要な国内航空路線に必要な飛行場を第2種空港、地方的な航空運送を確保するために必要な飛行場で地方自治体が設置・管理するものを第3種空港としています。

 これらのいずれにも属さない飛行場は「その他飛行場」と呼ばれ、広島西飛行場や東京都営の調布飛行場がそれです。名古屋空港も新空港開港後、小型機飛行場になれば、規模はケタ違いに大きくても「その他飛行場」となります。

 名古屋空港のように、ジャンボが離着陸できる長滑走路、年間1千万人超の旅客を扱う国際線・国内線のターミナルビルなど全国有数の施設をもつ大空港を廃止し、小型機飛行場とするのは日本に例のないことです。

広島西飛行場
<写真>コミューター機が離発着する小型機専用の広島西飛行場







搭乗率49%で採算は厳しく

 愛知の神田県政は、新空港開港後の現名古屋空港をGA(ゼネラル・アビエーション)空港にするといいます。名古屋空港将来構想検討会議はGA空港について「定期航空、防衛航空以外の航空活動全般を指す言葉として使われているが、日本語の定訳はない。範囲についても、チャーター、コミューターを含むかどうかで定まった定義はない」としているようにあいまいな内容です。要は小型機専用飛行場ということです。

 広島西飛行場は、小型機による旅客輸送、警察・消防などの公共航空、写真撮影、遊覧飛行などの産業航空を扱っています。航空機は50人乗り程度の旅客輸送機、セスナなどの単発・双発機、ヘリコプターです。大・中型機を使う日本航空や全日空の定期旅客路線はありません。

 広島西飛行場では、コミューター定期旅客路線はジェイ・エアと日本エアコミューターの2社が運航しています。路線は札幌、新潟、出雲、高知、宮崎、鹿児島。運航便数は1日12便(今年7月1日現在)。使用機は50人乗り小型ジェット旅客機、36人乗りと19人乗りのプロペラ旅客機です。

 1日12便、旅客実績年間11万人といっても、実は広島西〜鹿児島が1日5便、年間7万人を占めています。私が調査したとき、鹿児島から36人乗りサーブ・スカニア機が到着しましたが、旅客は12人でした。飛行場長も客数を気にしていました。昨年度の同飛行場のコミューター航空の平均搭乗率は49・3%。6割が採算点といわれているところからみると、きびしい状況にあるといえます。

 広島西飛行場の常駐機は、固定翼機19機、回転翼機(ヘリコプター)15機。遊覧や写真撮影につかわれるセスナなど業務用、広島県警察本部と広島市消防局消防航空隊のヘリコプターのほか、自家用の単発機が1機です。広島はフォード傘下の自動車メーカー・マツダの本拠地ですが、社用機は1機もありませんでした。

空港ビルはがらんどう  自衛隊が主役に

大型店は閉鎖  雇用は大激減

 小型機専用となった広島西飛行場では、国際線ターミナルビルは無用として撤去されました。国内線のターミナルビルは残されました。それにしても小型機専用飛行場には広すぎます。

 出発ロビー部分には、集客施設として第2種大規模店舗の観光物産館「メープルプラザ」がオープンしました。しかし、集客は先細りとなり、最近ついに閉鎖されました。私が行ったとき、その一角はサッカーチーム・サンフレッチェ広島の事務所になっていました。

 現在、飛行場のターミナルビルとして使われているのは往時の到着ロビー。コミューター航空の出発・到着ロビーと空港管理事務所になっています。玄関を入ると、正面に搭乗手続きカウンター、右手に普通の駅のキオスク程度の売店、左手に待合のいすが並んでいます。レストランはありません。年間旅客11万人といえば、1日平均わずか300人。これでは商売にならないでしょう。

 愛知県の構想では、現在の名古屋空港の国内線ターミナルビルをコミューター航空のターミナルに使います。2025年の旅客予測は42万6500人。私はこれも水増しと考えていますが、額面どおりとしても1日1200人足らず。小スーパー程度の客数です。

 広島西飛行場事務所の職員は9名です。責任者の飛行場長は国土交通省、次長は広島県からの出向です。広島市から出向してきている人もいます。広島空港時代に比べ、地元雇用は大激減です。

 地元自治体の負担は、飛行場の維持管理費だけではありません。関係地方自治体によるコミューター航空会社にたいする助成は89年度から始まり、廃止された2000年度までの間で27億7千万円にのぼっています。

 神田県政は、名古屋空港跡地でのコミューター航空の展開を地域振興策の柱としていますが、コミューター航空とGA飛行場の実態を冷静に見る必要があります。

広島西飛行場のカウンター<写真>人影がない広島西飛行場のカウンター







国交省引き揚げ  防衛庁が管制?

 広島西飛行場の航空保安業務は、財団法人小型航空機安全運航センターに委託されています。同運航センターは広島西のほか、兵庫県の但馬、熊本県の天草、岡山県の岡南の各飛行場で、離着陸する航空機への飛行場情報提供や飛行場場面管理・無線施設保守管理の業務をおこなっています。

 広島西飛行場の旧管制塔では、2人の職員が無線で飛行場情報を流していました。現行法で航空管制ができるのは国土交通省か、その委託を受けた防衛庁だけです。広島西では、原則として航空機への指示はおこなえません。情報を聞いたパイロットが自主的に判断して離着陸をおこなう建前になっています。

 名古屋空港をGA空港化した場合でも、航空自衛隊小牧基地のC130H輸送機など軍用機の頻繁な離着陸があります。新空港開港後、空中給油機の小牧基地配備も取りざたされています。広島西飛行場のように情報提供ではすみません。国土交通省が引き揚げるなら、防衛庁が管制をにぎることになります。

 愛知県は、名古屋空港の跡地利用について、コミューター航空などのGA空港としての活用や、空いた国際線ターミナルビルへの大型集客施設の誘致などにより地域振興をはかるとしています。しかし、広島西飛行場の実態は、にぎわいのない小飛行場という印象でした。屋上の展望デッキも閉鎖されていました。

 中部国際空港開港予定日の05年3月19日早朝。前夜まで喧騒をきわめた名古屋空港のターミナルビルは一転がらんどうとなり、自衛隊主役の飛行場となることはまちがいないでしょう。

中部国際空港は 「威信のための施設」

 神田県政は、24時間運用の国際空港の必要性を強調しています。広島西飛行場を訪れた前日、関西国際空港を1年ぶりに調査しました。ここは日本唯一の24時間空港です。しかし、深夜の旅客便は午前1時25分発のバンコク行きのわずか1便だけでした。

 在日外国航空会社協議会は2000年10月に発表した「急降下が求められる高水準の日本の民間航空経費」と題した声明書のなかで、中部国際空港についてこう喝破しました。

 「名古屋には既に使用可能な滑走路を一本有する空港がある。同滑走路の使用率は飽和点からほど遠い。名古屋地区で二十四時間空港への格別の要請はなく、既に同空港にはヨーロッパやアメリカへの長距離便に対処できる二千七百四十mの滑走路がある。新中部国際空港は主に中部地域の威信ための施設として案出されたものである」

 広島西飛行場や関西空港の現地調査からは、その指摘が生なましく浮かび上がってきました。

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