政策

設楽ダム建設予定地等の自然環境・生物多様性の保全を求める要請書―環境大臣宛

環境大臣 小沢 鋭仁 殿

日本共産党愛知県委員会 委員長 岩中 正巳

設楽ダム事業は、自民党・公明党政権のもとで2008年10月27日、「設楽ダムの建設に関する基本計画」(以下、「設楽ダム基本計画」という。)が告示され、2009年2月5日に、「設楽ダム建設に伴う損失補償基準協定書」の調印、「設楽ダム建設同意に関する協定書」の調印が行われました。

設楽町や愛知県の住民に十分な説明や意見を聞くことなく、強引に手続きを進めた大きな問題のある計画です。

総事業費約2070億円(地元対策費を含めると約3000億円)の設楽ダムの目的は、(1)洪水調節、(2)流水の正常な機能の維持、(3)かんがい、(4)水道とされています。

私どもは、これらの目的のいずれも根拠がなく、設楽ダムは必要のない事業だと考えています。建設予定地の設楽町と住民に取りかえしのつかない犠牲を押し付ける愛知県内最悪の建設地域の破壊計画です。

設楽ダムの洪水調節効果は、基準地点の新城市石田の集水面積の11.4%であり、非常に限られています。貴重な自然環境を守るためにも別の方法(破堤しにくい堤防など堤防強化や、不連続堤による遊水地、緑のダムと言われる森林整備、農地の適正な管理、氾濫原の宅地化・都市化の抑制など、流域全体での治水計画)を十分検討するべきであるのに、ほとんど検討されないまま「ダム先にありき」で推進されています。

流水の正常な機能の維持に関しては、設楽ダムの有効貯水容量の65%、利水容量(堆砂容量と洪水調節容量を差し引いたもの)の82.2%が流水の正常な機能の維持容量となっており、全国的にみても極めて異常なダム計画となっています。そもそもダムを建設し、河川の水の流れを遮断することは、本来河川が持っている流水の正常な機能を壊すものです。

かんがい及び水道に関しても、2001年度(2002年3月)に完成した豊川総合用水事業で確保され、現在はおよそ1億立方メートルを越える供給余力があります。また、今後の水の需要見通しも実績と乖離した過大な需要見込みとなっています。

さらに深刻なのは、自然環境、生態系にあたえる影響です。

設楽ダム建設予定地には、重要だと言われる動植物だけでも181種あり、そのなかで設楽ダムの建設によって、「生息地の消失、改変に伴い、生息環境の多くが生息に適さなくなる」あるいは「生息が確認された個体の多くが消失する」動植物が30種あることが、私どもが不十分だと考える環境影響評価書にさえ指摘されています。

とりわけ国の天然記念物で、世界のなかで愛知県の豊川から三重県の宮川までの伊勢三河湾に流入する河川にのみ生息しているネコギギに与える影響は深刻です。環境影響評価書では、ダム建設のため生息できなくなるネコギギを「移植」するとしているが、「豊川水系設楽ダム建設事業環境影響評価書に対する環境大臣意見」でも「現段階ではネコギギの移植に関する知見が十分に得られているとは言えない」と指摘しているようにネコギギの「移植」は、技術的にも未確立であり、実際に国土交通省の実験も何度も失敗し、ネコギギが、将来何世代にもわたって生息し続ける保障はどこにもありません。

2010年には、愛知県で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催されます。世界でもこの地域にしかいない絶滅危惧IB類であるネコギギの豊川における最大の生息地を破壊する設楽ダムを建設することは、生物多様性の保全に逆行し、世界にも恥ずべき行為です。

くわえて三河湾への環境影響も懸念されています。

日本海洋学会海洋環境問題委員会は、設楽ダムの建設は、「1)取水によって内湾の環境形成に本質的なエスチュアリー循環の減少をもたらす点、2)停滞したダム湖の汚濁した底層水と底泥が洪水時に流出することで海に多大な負荷がかかる点、3)ダム湖の堆砂に伴って海岸侵食を加速し、干潟・浅瀬を消失させる点に関して、三河湾への影響が強く懸念される。」と指摘しています。

不必要な事業をやめ、ネコギギやクマタカなどが生息する愛知の宝ともいえるこうした自然環境を守り、生物の多様性を保全するために、以下、要請いたします。

  1. 自然環境を守り、生物の多様性を保全するために設楽ダム建設計画の中止を求め、生物多様性条約締約国会議開催国として責任を果たすこと。
  2. 日本海洋学会海洋環境問題委員会が指摘している「設楽ダム建設が三河湾に及ぼす影響を適正に評価できる環境影響評価」をはじめ、設楽ダムの環境影響評価のやり直しを求めること。環境省としても独自に設楽ダム建設が三河湾に与える影響について調査すること。
  3. 設楽ダム建設計画関連の環境保全を事業者任せにせず、環境省としても国の天然記念物で絶滅危惧ⅠB類のネコギギや、絶滅危惧ⅠB類のクマタカなど貴重な動植物、生態系を確実に守る対策を検討し、県民参加の新たな検討会議をたちあげ、早急に保全策をまとめること。