政策

設楽ダム建設計画の中止を求める要請書―国土交通大臣宛

国土交通大臣 前原誠司 様

日本共産党愛知県委員会 委員長 岩中正巳

前原誠司国土交通大臣は9月17日の就任会見で、ダムに依存した河川行政の全面見直しについて言及し、建設中または計画段階の全国143ヵ所のダム事業を見直す考えを示しました。また、10月9日には、「平成21年度におけるダム事業の進め方などに関する前原国土交通大臣のコメント」が発表され、その中で、設楽ダム、木曽川水系連絡導水路を含む、国及び水資源機構が実施している48事業については、2009年度以内に、「(1)用地買収、(2)生活再建工事、(3)転流工工事、(4)本体工事の各段階に新たに入らないこととし、新たな段階に入ることとなる工事の契約や用地の買収などは行わないこととする」として、一部凍結を明らかにしました。

民主党の政策集(2009年7月23日発行)では、「現在計画中または建設中のダムについては、これをいったんすべて凍結し、一定期間を設けて、地域自治体住民とともに必要性を再検討する」と明記しています。

私どもは、これまでも自然環境と地域社会を破壊する設楽ダム計画はじめ無駄なダム事業に一貫して反対してきました。そうした立場からも前原大臣および民主党が選挙で公約したダム事業の「凍結」、「必要性を再検討」することを真摯に実行に移すことを心から願うものです。

設楽ダム事業は、自民党・公明党政権のもとで2008年10月27日、「設楽ダムの建設に関する基本計画」(以下、「設楽ダム基本計画」という。)が告示され、2009年2月5日の「設楽ダム建設に伴う損失補償基準協定書」の調印、「設楽ダム建設同意に関する協定書」の調印が行われました。

設楽町や愛知県の住民に十分な説明や意見を聞くことなく、強引に手続きを進めた大きな問題のある計画です。

総事業費約2070億円(地元対策費を含めると約3000億円)の設楽ダムの目的は、(1)洪水調節、(2)流水の正常な機能の維持、(3)かんがい、(4)水道とされています。

私どもは、これらの目的のいずれも根拠がなく、設楽ダムは必要のない事業だと考えています。建設予定地の設楽町と住民に取りかえしのつかない犠牲を押し付ける愛知県内最悪の建設地域の破壊計画です。

設楽ダムの洪水調節効果は、基準地点の新城市石田の集水面積の11.4%であり、非常に限られています。貴重な自然環境を守るためにも別の方法(破堤しにくい堤防など堤防強化や、不連続堤による遊水地、緑のダムと言われる森林整備、農地の適正な管理、氾濫原の宅地化・都市化の抑制など、流域全体での治水計画)を十分検討するべきであるのに、ほとんど検討されないまま「ダム先にありき」で推進されています。

流水の正常な機能の維持に関しては、設楽ダムの有効貯水容量の65%、利水容量(堆砂容量と洪水調節容量を差し引いたもの)の82.2%が流水の正常な機能の維持容量となっており、全国的にみても極めて異常なダム計画となっています。そもそもダムを建設し、河川の水の流れを遮断することは、本来河川が持っている流水の正常な機能を壊すものです。

かんがい及び水道に関しても、2001年度(2002年3月)に完成した豊川総合用水事業で確保され、現在はおよそ1億立方メートルを越える供給余力があります。また、今後の水の需要見通しも実績と乖離した過大な需要見込みとなっています。

さらに深刻なのは、自然環境、生態系にあたえる影響です。

設楽ダム建設予定地には、重要だと言われる動植物だけでも181種あり、そのなかで設楽ダムの建設によって、「生息地の消失、改変に伴い、生息環境の多くが生息に適さなくなる」あるいは「生息が確認された個体の多くが消失する」動植物が30種あることが、私どもが不十分だと考える環境影響評価書にさえ指摘されています。

とりわけ国の天然記念物で、世界のなかで愛知県の豊川から三重県の宮川までの伊勢三河湾に流入する河川にのみ生息しているネコギギに与える影響は深刻です。環境影響評価書では、ダム建設のため生息できなくなるネコギギを「移植」するとしているが、「豊川水系設楽ダム建設事業環境影響評価書に対する環境大臣意見」でも「現段階ではネコギギの移植に関する知見が十分に得られているとは言えない」と指摘しているようにネコギギの「移植」は、技術的にも未確立であり、実際に国土交通省の実験も何度も失敗し、ネコギギが、将来何世代にもわたって生息し続ける保障はどこにもありません。

2010年には、愛知県で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催されます。世界でもこの地域にしかいない絶滅危惧IB類であるネコギギの豊川における最大の生息地を破壊する設楽ダムを建設することは、生物多様性の保全に逆行し、世界にも恥ずべき行為です。

くわえて三河湾への環境影響も懸念されています。

日本海洋学会海洋環境問題委員会は、設楽ダムの建設は、「1)取水によって内湾の環境形成に本質的なエスチュアリー循環の減少をもたらす点、2)停滞したダム湖の汚濁した底層水と底泥が洪水時に流出することで海に多大な負荷がかかる点、3)ダム湖の堆砂に伴って海岸侵食を加速し、干潟・浅瀬を消失させる点に関して、三河湾への影響が強く懸念される。」と指摘しています。

不必要な事業をやめ、ネコギギやクマタカなどが生息する愛知の宝ともいえるこうした自然環境を守り、生物の多様性を保全するために、以下、要請いたします。

  1. 設楽ダム建設は、過大な水需要見通しに基づき、全国一「流水の正常な機能の維持容量」も多く、異常な計画となっています。また、ダム建設の予定地に生息する国の天然記念物で絶滅危惧ⅠB類のネコギギは、わずか数十mの間で遺伝的な組成の差異があるとの研究結果もでています。国土交通省が行っている移植実験では、遺伝的な差異のあるネコギギのすべてが保護できるとの確証が得られません。
    生物多様性条約締約国会議開催国としての責任を果たす立場にたち、このような異常な計画である設楽ダム建設の中止をただちに決断すること。少なくとも設楽ダムにかかわる09年度予算の執行、2010年度予算要求、入札は、いったん凍結し、計画の見直しを真摯に行うこと。
  2. 豊川水系フルプランは、2002年3月に完成した豊川総合用水事業や2003年3月に完成し、一度も使っていない幸田蒲郡送水管などをふまえ、水が余っている実態に即して、今すぐ見直しを行うこと。
  3. 河川の水の流れを遮断するダムを計画しておきながら、「流水の正常な機能維持」のためにダムをつくるという国民をあざむくような姿勢を改めること。
  4. 自然と共生していくためにも設楽ダムに頼らない流域全体での治水計画(破堤しにくい堤防など堤防強化や、不連続堤による遊水地、緑のダムと言われる森林整備、農地の適正な管理、氾濫原の宅地化・都市化の抑制など)を改めて策定し直すこと。
  5. 環境影響評価は、三河湾への環境影響も含めたものにするためにもやり直すこと。
  6. 水没予定地にくらす住民の皆さんは、何十年とダム問題で「蛇の生殺し」状態になっており、新たな設備投資や住宅改修、森林の管理なども十分にできずに損害を被ってきました。
    設楽ダムの建設の有無に関わらず、水没予定地にくらす住民の皆さんへの生活・営業支援、損害賠償を行うこと。設楽ダムを中止にした場合も財政的な裏づけをもって、設楽町の活性化のために支援を行うこと。そのためにも「公共事業の中止に伴う住民の生活再建・地域振興を推進する法律(仮称)」を制定すること。

以上