愛知民報

どうなっている「愛知の空港」 中部国際空港と県営名古屋空港

 「中部国際空港・関連開発を考えるネットワーク」(略称・中空ネット、中川武夫代表世話人)が6月14日おこなった第5回総会で、愛知の大型開発問題を追及している林信敏氏(日本共産党元県議)が報告した愛知の空港問題の現状を紹介します。

愛知の空港

 現在、愛知県内には、中部国際空港(常滑市)と愛知県営名古屋空港(豊山町)という、2つの大規模空港があります。

 戦後、愛知県の大規模空港は名古屋空港(小牧空港)ひとつでした。名古屋空港は当時の運輸省が設置管理者で、2740メートルの滑走路と国際線・国内線の各ターミナルをもち、国際・国内の定期航空路線が就航する日本有数の空港でした。

 滑走路の東側には航空自衛隊小牧基地、国内線ターミナルビルの北側には自衛隊機の製造・修理をおこなう三菱重工小牧南工場があり、軍用機も滑走路を使う“軍民共用空港”でした。この特徴は県営空港になった今日も続いています。

 1990年代の後半になると、愛知を生産拠点とするトヨタ自動車の多国籍企業化戦略に呼応し、中部財界、県・名古屋市政とその与党(日本共産党を除く、いわゆる自民・民主・公明の「オール与党」)が「経済のグローバル化」のなかで「県内産業の国際競争力強化」のための社会産業基盤として、また、景気浮揚の大型公共事業として2005年の愛知万博開催と新しい中部国際空港建設をすすめました。

過大予測

 「中空ネット」に結集する県民は、中部国際空港建設や関連開発の計画の見直し・中止を求めました。新空港建設とその関連開発事業(愛知県企業庁が「中部臨空都市」を建設するため空港周辺海域を大規模に埋め立てる計画)は将来需要を過大に見積もり、海の環境を悪化させるからです。

 2005年2月、成田、関空に続く日本で3つ目の国際空港として中部国際空港が知多半島の常滑沖に開港しました。

トヨタ頼み

 この空港は「中部国際空港株式会社」が経営しています。社長は開港以来3代続いてトヨタ自動車出身者。

 大企業の資金と経営方式を公共事業に導入してムダなく効率的に運営するという「民活」路線ですが、実は、大企業の活動範囲を地球規模に広げ、利益を増大させるために、国民の税金を使う公共事業を好き勝手に活用する仕組みです。

 中部国際空港の場合も、空港建設や会社設立に巨額の公的資金が投入されています。国が、空港会社の株の4割をもっています。トヨタ自動車は2・98%に過ぎません。

 しかし、トヨタが空港運営の主導権を握っています。中部国際空港は、世界中で活動するトヨタグループの“空飛ぶタクシー”のターミナルの役割を強く持っています。

空中楼閣

 空港本体だけでなく、関連開発に国と自治体の巨額の資金が投じられました。

 空港への交通アクセスとして名鉄が乗入れる空港線の新設、知多半島道路の4車線化、知多横断道路・空港連絡橋、国道155号など関連する国道・地方道の整備、常滑の海を埋め立て
ての「中部臨空都市」の用地造成がおこなわれました。

 しかし、「中部臨空都市」用地への企業誘致は期待のイオンモールが開業を延期するなど計画通り進展せず、“空中楼閣”になりかけています。

無用の二本目滑走路 中部国際空港

赤字転落

 2005年愛知万博開催とセットで開港時は好調だった中部国際空港ですが、その後は航空路線の撤退・休止・減便が相次ぎ、旅客数・貨物量ともに減りました。

 米本土便で残っているのはデトロイト便だけ。「看板路線」の中東・ドバイ便は廃止され、パリ便の今秋廃止の話も出ています。

 大空港をつくれば、世界から飛行機と人が集まってくるわけではありません。

 万博需要が退潮したところへ、世界不況に見舞われました。空港会社は初の赤字に転落しました。

トヨタ依存

 今回の世界不況の影響で、中部国際空港の利用は、成田や関西の国際空港に比べ、大きく落ち込みました。

 中部国際空港はトヨタ中心の自動車産業に極端に依存している特異な需要構造の空港だからです。

 空港会社首脳も「旅客、貨物とも利用に占めるトヨタグループのシェアが高い」(平野幸久会長)「宿命的にトヨタに依存せざるを得ない」(稲葉前社長)と認めています。

政治責任

 このほど中部国際空港会社が発表した09年度経営計画は旅客数を950万人と見込んでいます。旧名古屋空港の利用実績を大幅に下回る数字です。

 「名古屋空港ではパンクする。もっと大きい空港が必要だ」――そんな宣伝がされました。「建設の結論先にありき」の欺まん的な政治キャンペーンで、空港開発を強行した政治勢力の責任が問われています。

 国会や愛知県議会で、空港開発の過大な需要予測を批判し、浪費と環境破壊を警告したのは日本共産党だけでした。その役割はますます必要です。

ムダの拡大

 中部国際空港や空港関連道路の利用は減少しているのに、愛知県の神田県政と財界は2本目滑走路や自動車専用道路・西知多道路の早期建設を国に働きかけています。

 2本目滑走路は1500億円、西知多道路も1500億円かかるといわれる大事業です。ムダと環境破壊を拡大することになります。

 需要の現実を見据え、余裕のある既存施設の有効活用こそはかるべきでしょう。

ペンペン草

 愛知県は、中部国際空港の空港島内と対岸部(前島)に「中部臨空都市」を建設する計画をつくり、03~07年度を「創設期」、08~12年度を「展開期」、13年度以降を「熟成期」と想定しました。

 もう計画期間の半分以上経っているのに、用地に建っているのはビルではなく、ぺンぺン草と「中部臨空都市分譲中」の看板です。

 前島の「りんくう常滑」駅前にホテルが進出したものの、いまも無人駅です。「中部臨空都市」は「熟成」せずに立ち枯れるかも知れません。

 民間企業による用地利用がすすまないため、県が税金を使って用地の買い取りや施設建設に向かうおそれもあります。監視が必要です。

軍用 危険な新段階 県営名古屋空港

 2005年2月、中部国際空港の開港にともない名古屋空港(愛知県豊山町)は国から愛知県に移管され、愛知県営名古屋空港(正式は名古屋飛行場)となりました。

小型機飛行場

 2740メートルの滑走路を持つ県営名古屋空港は、自治体が管理運営する飛行場としては日本最大規模です。

 しかし、空港としては小型機専用飛行場に位置づけられています。日本航空系のジェイエア社が名古屋と地方都市を飛ぶ航空路線に小型旅客機を就航させています。着陸料の割引、利用者の駐車料無料など県の優遇措置のもとで、05年30万人だった旅客数は07年43万人に伸びました。金融危機に見舞われた08年度は41万人に落ちましたが、中部国際空港に比べ減少率は小さく、内需型空港の強さを示しました。

 警察・防災・報道・ビジネス用の小型機・ヘリコプターも県営空港を利用しています。

 愛知県は空港運営を県出資の第3セクター「名古屋空港ビルディング株式会社」に委託しています。同社の07年度純損失は6億円余。県は09年度予算で約20億円を投じ、税金投入でささえています。

軍事で世界へ

 他の自治体空港にない県営名古屋空港の特徴は、自衛隊機や米軍機も使用する軍用飛行場だということです。

 名古屋空港の主役は自衛隊です。自衛隊機の着陸回数はジェイエア機の1・7倍。県営空港の着陸料収入の6割は自衛隊からです。

 小牧基地には、イラク戦争やソマリア沖の「海賊対処」に派遣されたC130輸送機に加え、KC767空中給油・輸送機(現在、訓練中)が配備されています。

 空中給油機は飛行中の戦闘機に直接給油する軍用機。この配備で同基地の海外侵攻機能が強化されました。

 現在、小牧基地はアメリカの世界戦略と連携した自衛隊の海外活動を空輸面で支援する国内最大の基地となっています。

 防衛省は今秋の小牧基地の航空祭で、空自の曲技飛行チーム「ブルーインパルス」の展示飛行を実施しようとしています。平和団体や周辺市民は反対運動を展開しています。

最もあぶない

 県営名古屋空港はもっとも危険な飛行場です。軍用機の重大事故が頻発し、住民の安全が脅かされています。

 07年10月、三菱重工小牧南工場で修理中の空自F2戦闘機が県営空港の滑走路上で墜落炎上しました。空港外であれば、住民を巻き込んだ大惨事になるところでした。

 その翌月には在韓米海軍基地所属の攻撃戦闘機2機が「トラブル」が起きたとして緊急着陸し、空港施設が壊されました。

 C130輸送機や空中給油機の事故も起きています。

 住民の安全保持に責任を負う県は、自衛隊や米軍に弱腰であってはなりません。

管制塔移転

 航空機に離着陸を許可する管制塔は、空港の“司令塔”です。旧名古屋空港時代は、国土交通省が管制業務を担当していました。県営化されてから、自衛隊の管制隊が担当しています。

 現在、県営空港側にある管制塔を基地内に移設する計画がすすんでいます。

 いま、県営名古屋空港は、世界に出動する軍用飛行場としての機能が強化されつつあるという新たな危険な段階を迎えています。

おわりに

 中部国際空港はトヨタ依存、県営名古屋空港は軍用依存――。これが愛知の空港問題の特性です。

 愛知の空港が、憲法9条を生かし、国際平和と県民生活向上に役立つ公共交通施設として発
展するよう県民の運動が求められています。