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【06.07.02】設楽ダム 希少生物 危うし 集水効率悪く、水需要予測過大

 国土交通省中部地方整備局は6月16日から、東三河地方の豊川上流に計画されている設楽ダム建設にともなう環境影響評価(環境アセスメント)の準備書の縦覧を始めました。6月25日には設楽町で説明会を開きました。同書では、天然記念物の淡水魚ネコギギの生息環境や、絶滅危ぐ種のクマタカの繁殖に影響があると予測しつつも、「環境への影響は可能な限り回避、低減でき、環境保全への配慮は適正」としています。地元住民らは「これで自然は守れるのか」と疑問を投げかけています。

 環境アセスメントの準備書によると、動物では119種類を抽出し調査。鳥類ではクマタカ、魚類でネコギギ、カジカ、昆虫類でクロゲンゴロウ、クモ類でアケボノユイレイグモなど10種類を保全が必要な種としています。

 クマタカは調査で確認された2組の繁殖テリトリーでダム建設工事が実施され、繁殖成功率が低下するとし、工事時期など検討するとしています。

 ネコギギやカジカ、モリアオガエルなどはダム建設により生息地が消失するので移植が必要としています。

 設楽ダム建設予定地近くの住民は、「いまはチドリやヤマセミなどの鳥がたくさん飛来する。ダムによって来なくなるのでは」と心配そうに話していました。

 設楽町役場を訪れ、環境アセスメントの準備書を縦覧した日本共産党の八田ひろ子前参院議員は「クマタカやネコギギなどの貴重な生物は愛知の宝です。ダム建設で自然を破壊することは許せません」と話しています。同党の田中邦利設楽町議は「ダム建設により110戸も水没します。ムダなダム建設は止めさせねばなりません」と強調します。

利水・治水効果に疑問

 設楽ダムは利水、治水面でも不要な事業です。豊川水系は流域面積が狭く、集水効率(流水量/利水容量)は1・6。木曽川水系(岩屋ダム9・9、牧尾ダム6・6)や矢作川水系(矢作ダム11・8)と比べて極端に低く、大規模ダムに適していません。

 国や愛知県は「水不足解消のため」とダム建設が必要」としていますが、将来の水需要を過大に見込んでいます。現在の東三河地方の水需要は横ばい。2002年度の水道用水の需要実績は国の豊川水系水資源開発基本計画の60%にとどまっています。水需要予測の要因となる県人口は2010年、世帯数も2015年をピークに減少します。県は2010年以後の人口減少期にも水道の需要増を見込んでいます。近年、世帯数が増加している名古屋市では節水効果もあり、水需要は減っています。

 地元住民からは「使わない水のため自然を破壊し税金を使うのは問題」と建設中止を含め再検討を求める声があがっています。

 設楽ダム工事事務所はダム建設による洪水被害の軽減も強調しています。しかし、設楽ダムが完成してカバーする流域面積は豊川水系全体の8・56%に過ぎません。洪水調整の有効性にも疑問があります

 日本共産党の林のぶとし前県議は「過大な水需要予測を根拠に、自然環境の浪費型大型開発を推進することは許されない。設楽ダム計画は中止すべきです」といいます。

三河湾の水質悪化さらに

 豊川は、豊川用水などの水利用ですでに水量が減り、豊川流域や三河湾の環境に悪い影響を与えています。三河湾への流入水量の減少が同湾内の水交換を弱め、水質を悪化させると見られています。宇野木早苗・元東海大教授は「豊川用水ができる前は、約3カ月半で三河湾の水は交換されていました。用水ができてから4カ月半かかるようになりました」と指摘しています。

 湖沼・海洋学者の西條八束・名古屋大学名誉教授は、「三河湾は1965年頃までは全国有数のノリの生産地として知られ、アサリなどの最適地でした。現在は汚濁が進み、漁業も衰退し、日本で最も汚れた海に変わりました。回復する方法の研究をすすめています」といいます。西條さんは、設楽ダムが建設されると大量取水のため三河湾に流入する真水が減り、湾の海水交換機能がさらに低下し、急ピッチで三河湾の水質汚濁が進むおそれがあると警告。「ダムは造ってはいけないし、造る必要はない」と語ります。